第8話 上級

 ミディが病室に入るとナハトが着替えていた。ギプスは取れたがまだ夥しい量の包帯が巻かれている。

 「ナハト、出かけるのか?」

「ああ、うん。任務入ったからね」

「え!?まだ完治してないのに...」

「怪我の完治待ってくれるほど人員に余裕がないんだようちは」

 レントゥスの隊員のほとんどが戦死している。それ故常に人員不足だ。

「じゃあ俺も連れてってくれ」

「いやそれは...」

「断っても勝手についていくから」

 ナハトが重傷を負って以来ミディの押しが強くなっている気がする。ナハトにもう怪我をさせたくないという強い覚悟を感じる。

「...わかったよ」

 渋々応じるナハト。


「ここが任務の場所だね。ここにキューブが出現予想が出てる」

「予測できるのか。すごいな」

「技術力結構やばいからね」

「でもキューブはまだできてないみたいだな」

「予想は絶対じゃないからね。しばらく待ってみよう」

 付近を探索して待つがいつまで経ってもキューブは現れない。

「あれおっかしいなあ」

「ん?ナハト、あそこに人がいるけどレントゥスの人か?」

 ミディが指を指した方向には青年がいた。

「おーい!ここは危険だから離れた方がいいぞ」

 返事を待たず青年の元へ駆けるミディ。そこに血相を変えたナハトが止める。

「待って!ここは立ち入り禁止だったはずだよ。君どうやって入ったの?」

 青年は何も答えない。変わりに口角をつり上げる。その瞬間、青年が消える。

「!?」

 ナハトが気づいたときには青年の手がナハトの腹を貫いていた。

「ごふっ」

 苦しそうに血を吐くナハト。怪我が完治しておらず万全の状態ではなかったとはいえ全く見えなかった。

「ナハト!?」

 ミディが遅れて反応する。

「あ〜あこんなもんか。やっぱり人間って大したことないね」

 ミディがナハトに近づこうとするがー

「来るな!逃げろ!」

 必死に止めるナハト。手を抜けないようにわざと深々と刺さりに行き、足止めするナハト。ナハトですら反応しきれないスピード。ミディでは相手にならない。少しでも時間を稼ごうと青年に話しかける。

「あんた誰?ただの人間じゃないよね」

「まだ俺の正体すら分かってなかったなんて!レントゥスの連中は本当にしょうもないね〜〜」

「教えてあげるよ。俺はグラミだよ。びっくりした?」

 ナハトは驚愕する。グラミがここまで人間に近づいていたなんて。

「じゃあなんでキューブが出現しない...?」

「ああレントゥスはあんなものでグラミが来たのか判別してるんだね。遅れてる〜〜あれを使うのは弱いグラミだけ」

「俺等みたいな人間に近い上級グラミはキューブがなくても人間界にいられる」

「まじか...」

「そんな...」

「ん?なんでミディ逃げてないの!?」

「お前を置いて一人だけ逃げれるわけないだろ」

「必死に時間稼いでたのに!普通こういうのは逃げるもんじゃん〜〜〜〜」

 悪態をつくナハト。そして上級グラミに向き直る。

「ミディだけは助けてもらえない?代わりに俺を好きにしていいからさ」

「ナハト!?」

「そっか...君はその人間のことが大切なんだね...そういうのを見てると俺...」

 ミディの前に立つ上級グラミ。

「それを壊したくなる」

 手刀をミディに向かって振り下ろす。だが間一髪、ナハトが間に割り込み手刀を受ける。胸に穴空き咳き込むナハト。

「まあミディ狙うだろうなと思ったよ...ゲホッ!」

「ふ〜んわざと誘導したわけね。めんどくさいやつ」

 ナハトを思い切り蹴飛ばす上級グラミ。ナハトはすぐさま起き上がりミディを押し倒す。

「わっ!」

 そのままミディに覆いかぶさる。上級グラミは興味深そうにしていた。

「面白いね!!根比べと行こうか!!」

 ナハトを殴り続ける上級グラミ。ナハトは無言で耐え続ける。

「ナハト...!!もういいから!!やめてくれ!!」

 ミディの悲痛な叫びが聞こえる。

「見てられないですね」

 上級グラミの体に穴が開く。

「なっ...に...」

 動揺する上級グラミ。そこには氷でできた銃を構えた男がいた。黒髪でスーツを身に着けている。レントゥスの人だろうか。顔の右半分には痛々しく火傷の痕が残っている。

「モルテ...」

 弱々しい声色でナハトが呟く。

「ナハト、知ってるのか?」

「ああ。レントゥス最強の戦闘員だよ。謎が多いから俺もよく分かんないけど」

 

 モルテは二人のことを気にもかけず上級グラミを狙い続ける。

「足速いんでしたっけ?じゃあ頑張って避けてくださいね」

 そう言って上級グラミの周りを取り囲むように大量の氷の銃が出現する。

「ばん」

 一斉掃射が始まる。上級グラミは素早く回避していたがいかんせん数が多すぎる。次第に逃げる場所を失っていく。モルテは逃げ場所が無くなるように誘導していた。袋の鼠。上級グラミは全身を蜂の巣にされて跡形もなく消滅した。

「すごい...!!」

 圧倒的な力。これが最強の戦士。ミディは衝撃を受ける。

「助けてくれてありがとう!それで...怪我人がいるんだ」

「いや知らないです。そっちでなんとかしてください。俺はグラミを殺すことしかできないですから」

「そんな...!!」

 泣きそうになるミディ。

「はあ〜〜〜めんどくさい。これでいいでしょ」

 モルテが手をかざすとナハトの傷口が凍り始める。

「止血しました。あとは知りませんので」

 そう言って音もなく消えるモルテ。


「上級グラミ...ここまで来ていたとは」

 移動しながらモルテは一人呟く。

「これはもう隠し通せませんね」

 彼には秘密が多いようだ。そこで咳き込むモルテ。口から鮮血が滴り落ちる。

「時間がない...早くしないと...」

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氷の記憶と秘密の結社 たなみた @tanamita0213

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