夢に出てきた君

西村いさな

夢に出てきた君

「恋湖ちゃんっ!」




 随分前に初恋の人が夢に出てきたことが何回もあった。私の初恋はしっかり覚えてる。長くて、何もできなかった恋だった。

 それは今から遡ること9年前、小学2年生の時に始まった。



「みなさん! 進級おめでとうございます。

よろしくお願いします!」


「よろしくおねがいします!」


 みんなが元気よく返事をすると、次に隣の人と話す時間が始まった。私は隣の席の、初対面の男の子に話しかけた。


「よろしくね! わたし、恋湖!」


「よろしく、おれ、湊!」


 (うわぁかっこいい)


 そう思うと同時に私は恋に落ちていくことに気がついた。それ以降、小学2年生の記憶はほとんどない。記憶が一番濃いのは小学3年生の時だ。



「恋湖ちゃんって、髪長いね」

「歯、白くていいね」


 小学三年生の時は子供らしく素直にいろんなことを湊くんに褒められていたことを覚えている。特に髪については誰からも褒められたことがなくて、嬉しかった。

 

「恋湖ちゃん、手、出して!」


(なんだろう……。)


 そう思いながら手を出すと私の両手が湊くんの手に包まれた。


(きゃあー!)

 

 初めて湊くんに触れられたこと、とっても嬉しかったなあ。



「あれぇ、パキッてならないなぁ」


「?」


(あ、そっか。最近手の骨をパキッて鳴らすの、流行ってるんだっけ)……



「はい、では授業始めまーす」


 授業が始まると、湊くんが私だけに聞こえるような声で、


「恋湖ちゃん、手ぇ出して」


 って言ってきた。この時も、手をパキッと鳴らすんだろうと思っていた。しかし、湊くんの手は私の片手をそっと握って離さない。手を繋いできたのだ。小学生時代の中で一番好きな思い出だ。


「こら! そこ手ぇ繋ぎません! 机、離しときなさい!」


(バレちゃった……)


 少し気まずくて、でも湊くんが気になってチラッと湊くんの方を見てみた。すると、湊くんがこちらを見つめていたみたいで、目があった。それからもたくさん褒めてくれることが多くて、ますます湊くんのことが好きになった。

 次は小学4年生の思い出。



「席替えするぞー」


「えーと、私は窓際か」



「恋湖ちゃん、また隣だな!」


(嘘! 小4になってこれで2回目だよ?)


 振り返ってみると、小2の頃から私たちの席は絶対に隣か斜めだった。この頃はこれは運命なんだって信じてた。でも、小学5年生になってクラスが離れてしまった。そして6年生。6年生もクラスが離れ、湊くんに彼女ができたことを知った。この頃は、クラスも離れたし……と湊くんを想う気持ちは薄れていった。さらに中学も離れ、気持ちは完全に消えた。……はずだった。



 高校1年生になって、夢に湊くんが出てくるようになったのだ。



(ここは……)


 私は大きな部屋にたくさんの人といることに気がついた。私も、他の人も綺麗なドレスやかっこいいスーツを着ている。


(なんか同窓会みたい……?)


 キョロキョロしていると湊くんを見つけた。もちろん、湊くんも高校生らしく成長している。私は思わずその湊くんに近づいていった。


『湊くん、だよね? 私のこと、覚えてる……?』


『……うん』


(なんか反応悪い?)


 私は懲りずに続けた。


『私、小学生の時、湊くんのことが好きだったんだよ? 仲良かったの、覚えてる……?』


『……うん』


 さっきとは違って少し照れている。あー。小学生の時にこれを言えていたらどうなってたのかな。



ピピピピッピピピピッ


「うーん……」


 目覚まし時計で目が覚めた私は、少し複雑な気持ちだった。嬉しいのか、なぜかよくわからない。その後も湊くんの夢を見ることが続き、訳のわからない感情に襲われる、苦しい日々が続いた。夢ごときでこんなに悩んでいる自分に対しても苦しかった。

 次は私がみた、湊くんとの一番新しい夢。



(ここは……。体育館?)


 私はどこかの学校の体育館にいることに気がついた。もちろん湊くんもいる。かっこいい。中学校でも、モテたんだろうな。中学校が湊くんとは違った私はふとそう思った。


『ねぇ、湊くんっ!』


『……』


湊くんは振り向いてくれたけど嫌そうな顔をしている。そして驚くべき言葉を投げかけられた。


『お前のこと、そんな想ってないから』


(え……)


 私は戸惑いを隠せず、きっと顔に出てたことだろう。目が覚めて夢だと気付いた後も無かったことにしたいと思った。……あ、そうか。まだ湊くんのこと、好きだったんだ、私。




 そして湊くんと、湊くんとの夢を忘れかけていた時、ついに湊くんと再開したんだ。やったよ。これでもやもやが消える。きっと!


「湊くん……!」


 私は湊くんに思わず駆け寄った。あれから何年も経っているのに。私のこと、わからないかもしれないのに。でも、そんなことなんて考えられなかった。周りなんて見えてなかった。湊くんは焦り、驚いた顔をしている。なんで?湊くん。本当の気持ち、聞かせてよ。



キキーッバンッ!



 湊くんの声、聞きたかったのに聞けなかった。










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