ついてきてる?
奈那美
第1話
それは、大学を卒業して就職してしばらく経ったころのことでした。
昔から本は好きで、漫画だろうが小説だろうが時間とお金が許す限りは読んでいました。
た・だ・し。
時間には余裕があるものの先立つものには不安しかない新入社員。
本の購入は好きな作家様だけで、マンガ……それも月刊誌や週刊誌はできうる限り立ち読みで済ませていました。
もちろん、好きな漫画家様の単行本が出たら購入していましたが。
今でこそ雑誌の立ち読みはかなり困難を極める状態となっていますが、その昔は結構おおっぴらに読ませてもらえていたのです。
その日も会社から通勤ルートを離れ、市内中心部にある大きめの本屋に出かけました。
お目当ての本棚の前は相変わらず多くの人がいて、マンガ雑誌を読んだり、購入のためにレジに持って行ったりとヒトの動きは結構激しいのです。
そんな中、やっと書棚の前の「いい位置」を確保した私は目当ての雑誌を手に取り、読みふけります。
──と、なんとなく違和感を感じました。
右後方にいる男性の立ち位置が妙に近いのです。
最初は、私が本棚の前にいて邪魔なのかな??と思いました。
そこで、左側のスペースが空いたので移動しました。
……その人も同じだけの間隔を保ったまま移動してきました。
そのあとも私が移動すると同じ方向に移動するを繰り返します。
気のせいかもしれないけれど、キモチワルイ……
私は気づいていないふりをして雑誌を本棚に戻し、店を出ました。
バス停にむかって歩いていると、なんだかつけられているような??
とっさに近くのパチンコ屋さんに入り、ぐるっと回って別の入口から外に出て帰りました。
ひと月ほど経って、さすがに時間帯も違うし、この前の人に会うことはないだろうと同じ本屋さんに行きました。
その店の品ぞろえがいいのが一番の理由なんです。
相変わらずお目当ての棚は混雑しています。
そして──また例の人もいました。
顔は見てない、というか後ろに立たれているので見えません。
なんとなくだけど、やべぇ……。
この日は前回と違って少し遅めの時間です。
できればサクッと帰りたい。
でも一番近いバス停は一箇所しか乗降場所がないうえに利用者が少なめ。
だから少し遠いけれど次のバス停まで歩くことにしました。
もしも、後ろに立ってたのが偶然だったら遠いバス停までわざわざは歩かないだろうし。
万一の場合も、そっちのバス停だったら『まく』ことも可能です。
さりげな~く書棚を離れて歩き出す私。
……やっぱりついて来ている感じです。
ひと通りが多い場所なので同じ方向に歩いているだけでは?と思われちゃいそうですが、なんとなく『気配』がするんです。
顔は見ていないものの着ている服とか雰囲気はわかってたので。
バス停……ここは目的地によって二か所にわかれています。
私はわざと自分が使わない路線のバス停でバスを待ちました。
Aー1バス停とします。
そこでできる限り道路際の場所を確保して、複数台見送った後、ドアが閉まる直前に一台のバスに乗り込みました。
そして次のバス停(Aー2)で他の乗客に混じってバスを降りた後、本来乗るはずだったバスが停まるBー2バス停に歩いて向かい帰宅しました。
さすがに『まいた』みたいです。
それから数カ月。
その本屋及び本屋がある界隈には近寄らないようにしました。
そしてその後は、その人と遭遇することはありませんでした。
というか、件の立ち読みできるコーナーがなくなったのでそういう人が出没しなくなったのかもしれません。
怖くはないけれど、もしかしたら怖い結果が待っていたかもしれない、そんな体験談でした。
ついてきてる? 奈那美 @mike7691
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