イルカのアナタへ

蒲生 聖

イロトリドリな世界

世界はカラフルだ。いろんな色に溢れている。

子どもの好きなグミのようでパステルカラーが見える。

あっちは白色でこっちは黒色、それに向こうでは黄色も見えるみたい。

空にぷかぷかと浮かんでいるのはイルカかな?純粋な水色でかわいいな。

真っ白な想像のキャンパスに全力で想いを馳せる。

世界って広いなぁ、面白いな。毎日がこんなにも楽しい。


翌日の朝、私はいつもより早く学校へ行く。

昨日は赤色を見れた、今日は何色が見えるのかなぁ?

ルンルンで通学路を歩く。今日も幸せな私をみて道ゆく人たちは妬む。

人気者って辛いね、多くの視線に耐えなくちゃいけないから。


「ねぇ…あの子って」

「例の…」

「どんな気持ちなんだろうね?」


学校へ着くとまだ早い時間のはずなのに多くの人の声が聞こえる。

教室に入ると私の隣の机には花が手向けられているのが見えた。

なんて綺麗なお花なんだろう?横には大きな箱があって少女が入っていた。

昨日は鮮烈な赤を放っていた少女はどこか青白い。

横たわる少女-ことちゃんはどことなく体調が悪そうだ。

そうだ、みんなで励まさないとね、私は人気者だからたくさん友達がいるんだ。


「ゆうなちゃーん、あきほちゃーん、しほちゃーん!」

私の可愛い呼びかけにぴくりと眉を動かす3人、ほら友達でしょう?

「アナタこんなことしでかしてタダで済むと思ってんの!?」

ゆうなちゃんが私に言ってくる。お母さんの叱咤やお父さんの逆鱗に比べるとかわいい言葉だ。今日はゆうなちゃんの番かな?いつものアソビ…『イルカごっこ』

みーんな仲良しのイルカさんだよ〜でもゆうなちゃんはひどい子だからいけないね?


「いけないのはアナタの方よ!殺人鬼!」

あきほちゃんが涙ながらに言った。しほちゃんも似たようなことを言っていた。ことちゃんは何も言ってこない。

私がいけない子?そんなはずはないわ。急に腹が立ち、カラフルだった世界が急に色褪せてくる。

「そんなひどいこと言わないで!!私は何もしてないじゃない!!!」

怒号を孕んだ声は学校中を駆け巡る。

色褪せた世界にはまた色付けしたら良い、昨日学んだことじゃないか。

カバンから銀色に光るものを取り出す。


何かを感じ取ったらしい先生は教室へ戻ってきた。

先生は信じられない光景を目の当たりにしたようだ。

鮮血に染まる少女たちを、他者の生命を奪った者への許されない罰を。


少女は常に不安だったのだ。

色を失う恐怖、

街ゆく人の視線、

親から叱咤される恐怖、

空腹なのに食べるものがない恐怖、

列挙し尽くせない程の不安の種を一人で抱えていた。

少女が変わったのはことちゃんの一言「可哀想だね」

それに何の意図があったのかわからない。

ただ、無責任な言葉だと思った、無理解にも程がある。心配を超えて皮肉を含むその声を奪ってやりたかった。

キッチンから盗んだ凶器を首筋に当てる。

持ち手に流れてくる赤色が温かくて美しい。

あぁ、ここは色とりどりな世界だ。


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