第8話 旅立ち
「じゃあ、オリオくんは……ほんっ……っとおにっ! 何も覚えてないんだね!?」
「ええ、あの部屋に入ってからの記憶が曖昧で……」
ダンジョンを出て、ユリンとオリオは連れ立って歩く。オリオは5回目になる説明を繰り返すことになった。
「……俺、ユリンさんに何かしました???」
「べべべべつに……何にもないよ! ボスはバシューって余裕でボクが倒しちゃったし!!」
(ん~、女神さまが都合の悪い記憶を消してくれたのかな~)
ドッペルは消滅し、ダンジョンの最奥へユリンたちは到達した。当然、沢山の宝物を入手したのだが、ユリンの関心事は二つだけだった。一つは自らの痴態をどこまでオリオが覚えているのか、そして……。
「……で、妹さんの手がかり、何か見つかった?」
ユリンは幼い日に出会った少女を思い浮かべながら問う。交わした約束は思いだせないが、もし会えるならばもう一度会いたい。
オリオは首を横に振る。この男はこうしていくつのダンジョンを踏破してきたのだろう。ユリンは朝日の照り返しが眩しくて目を細めた。
「……っじゃあ、ボクも一緒に手伝ってあげる!」
「え?」
「オリオくんの妹さんとは会ったことあるし! これも何かの縁だしさ!」
「……ありがとうございます……ユリンさん……」
きゅぅ~
「あは~、お腹すいちゃった。早く街に帰ろ」
あの戦いでオリオの荷物もほとんどがだめになっていた。再び、遭難。ということはないだろうが、とにかく今は温かいものを食べて、ゆっくりと休みたい。
「あ、ユリンさん、良かったらこれを……」
「え? チョコ?」
「隠しポケットに入れていたので、これだけ無事でした」
「わあい。あひがと!」
オリオは板チョコレートを二つに割って片方をユリンに渡す。ユリンはぱくつきながら、お礼を言った。
「昔友達だった男の子がいつもお腹を空かせてたんで、これだけはいつも常備してるんですよ。俺」
「ひょうなんだ……むぐ……」
「……食べ方までそいつと一緒ですね……ユリンさん……」
ユリンとオリオ、その歩む先には何があるのか。それは女神さますら知らない。
聖杯の拳闘士ユリン - overcome shame - 黒猫夜 @kuronekonight
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