沸騰する祭×去らない熱

卯月

太陽押し上げ祭

 太陽が落ちてくる。

 と、村の外から来た呪術師が言った。

「地面に近づいてきとるんだ。このままだと、全てが焼けてしまう」

 日照りに苦しむ村人が、どうすればいい、と呪術師に詰め寄る。

「祭だ。日の出から日没まで、村人全員で踊り続けて、太陽を押し戻す」


 翌日。

 夜明け前に広場に集まった村人は、呪術師が叩く太鼓に合わせて、踊り始めた。


 ドォン。

「ヤー!」


 男も女も、老人も子供も。


 ドォン。

「ヤー!」


 両手を突き上げ、足を踏み鳴らし。


 ドォン。ドォン。

「ヤー! ヤー!」


 最初は緩やかに。少しずつ速く。

 呪術師から交代した村の若者が叩くと、太鼓はさらに速くなり。

 昇りゆく太陽に照らされ、汗水を垂らし。

 次第に、何のために叩くのか、何のために踊るのか、誰もわからなくなりながら、熱に浮かされた祭は続く。

 そんな、村人たちの恍惚を破ったのは、突然の叫び声だった。



 少し前。

 完全には陶酔していなかった一人の男が、喉の渇きを自覚した。踊りを休むのが後ろめたいので、足音を殺してこっそり家へ戻ろうとし。

 ――隣の家から出てきた、呪術師と目が合った。

 呪術師は、ぱんぱんに膨らんだ袋を担ぎ、他の多くの家も、入口が開け放されている。


「……ど、泥棒だあっ!」


 男が叫び、呪術師が袋を放り捨てた。

 がらがらと転がり出る盗品。一目散に走る呪術師。

「呪術師の野郎が、俺たちの家から、盗んでやがるぞ!」


「……泥棒?」

 我に返った村人たちが、一気に殺気立つ。

「畜生! それが狙いか!」

「騙したのね!」

「うおおぉ!」

 男も女も、老人も子供も。

 奔流のように突進し、逃げる呪術師を押し倒して殴り、殴られ、誰が誰を殴っているのかもわからない狂騒のさなか。


 ぽつ、ぽつ。

 と、人々の上に、雨が降り始めた。


   ◇


「というのが、この村で四百年続く、『太陽押し上げ祭』の起源さ」

 村出身の男が、地元の祭を見せようと連れてきた彼女に解説する。

「……押し上げてないわよね? 祭の大半、殴り合いだったよね?」



〈了〉

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沸騰する祭×去らない熱 卯月 @auduki

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