第15話 ステューシアの決意
ステューシアが目を覚ますと、影と呼ばれる三人の男が血を流して倒れていた。
ゴツゴツした岩にもたれかかるようにして、死んでいる。
あの顔、見覚えがある。
影の中でも、主任と呼ばれる男だ。
彼がやられたとなると、今回の王の落とし物は相当の手練れだ。
以前牢屋で、「俺は単身で城砦を陥落させたことがある」と部下に武勇伝を語っていたし、刃向かった王の落とし物が彼に殺されるのを何度も見たことがある。
風、潮の香りがする。
ザバーンと波のうつ音が、リズム良く響く。
私もこのまま死ぬのだろうか。
シチュエーション的には、反乱した私が刺し違える形で影を殺したように見える。
あの子達も、殺されてしまう。
まだ七歳の彼も、口笛が上手な彼も、水魔法でこっそり私を乾きから救ってくれた彼女も、あの子も、あの人も。
一人一人の顔を思い浮かべて、「ごめんね」と呟くと、涙が溢れてきた。
「その謝罪は、誰に向けてかな?」
鎧の女、リリキアが岩陰から聞く。
姿は見せない。
「私と同じ境遇の子等よ。私が下手を打ったから、きっと殺されてしまう」
「そうかな。君たちは使い勝手のいい駒だろう。そんな無駄遣いするかね、大臣は」
お見通し、か。
自害したと明らかにわかるように死ねば、皆は殺されずに済むだろうか。
でも残念。
私の氷は溶けて無くなってしまうから、自害したとはわからないだろう。
「あの人たちにとって、私達は駒であり、性欲処理の道具であり、虐める対象であり、無くなっても痛くないゴミなのよ。表に出られたら困る。どうせ殺すなら、どう殺せば楽しいか。そんな存在なの」
波の音が、不思議と私を落ち着かせる。
ザバーン、ザバーンという音が、心地よい。これから死ぬというのに不思議と穏やかな気持ちだ。
「大臣というのは馬鹿なのか。それとも掃いて捨てるほどの人材が溢れているのか。で、今回の目的も王の落とし物の抹殺ね?」
どこから声がするのか全くわからない。
まあいい。反撃する気もない。
「ええ、火の使い手と聞いていたけど、わけもわからないうちにやられちゃった。無事に逃げ切れるといいわね」
「王の落とし物を殺せば、あなたにいいことはあるの?」
いいこと。あの子達の顔を思い出す。
もっとも、横目でしかみたことはないから、思い出せる顔も少ないのだが。
「みんなでスープが飲めるんです。温かいスープが」
初めて涙が込み上げてきた。
不意に少女の声が聞こえた。
「…飲もうよ。あったかいスープ。お魚も、お肉も、パンも添えて」
顔を上げると、銀髪の少女が目の前に立っている。
「え?」
「寝返って。私も手伝うから。その子達の脱出。みんなで逃げて、ここでスープ食べようよ。ねぇ、タック、いいでしょ?」
銀髪の少女が振り返ると、大きな岩がパキパキと割れ、男が現れた。
困った、と隠しもせず顔に表し、髪をかきながら少女に近づく。
「やれやれ。国と一戦交えるってことだよ?まあ、いつかはこんな国からオサラバしようと思ってたけど、正面から戦う気は無かったんだけどなぁ。お姉さんどう思いますか?」
「どう、と言われましても、、、流石に死んでしまうのでは?」
はぁ、と男はため息をつく。
「ちなみに逃げ続けるのは現実的だと思いますか?」
横に首を振る。
国が本気になれば、誰であろうと殺すだろう。ましてや王の落とし物対策は、国家のメンツがかかっている。
大臣が本気になれば、然るべき面子を揃え、入念に準備をし、諜報戦を行った上で確実に殺しにくるだろう。
国家とはそういうものだ。
「さすがに、、、国ですよ?」
「ですよねぇ、、、でも、スノゥには伸び伸び生きてほしいんだよなぁ。どうしたもんかなぁ。あ、いいこと思いついた!」
銀髪の少女が目を輝かせて男を見る。
「これはどうだろう。今から捕えられている王の落とし物を救えば、標的はスノゥから分散される。時間が稼げる。そしたら、対国家の防衛線を柔軟に張れる。どうかなスノゥ」
「いいと思う!」
少女が目を輝かせて返事をする。
男はブツブツ言いながら地面に絵を描き始めた。
要塞?城?
細かくは見えないが、岩の上に白い線がどんどん出されていく。
「どう?ここからスノゥの光線が出る。腐ってやがる!早すぎたんだ!ごっこができるぞ」
「なにそれ」
銀髪の少女は首を傾げている。
「よしよし。いいぞ、久々に創作意欲が高まってきた。あの辺に防衛線をはろう。スノゥ、背中トントン頼む」
「え?今からつくるの?」
「イメージが明確なうちに造らないと!さあ頼むぞ!」
男が地面に手をつくと、かなり先の地面が盛り上がり、どんどんと高くなっていく。
要塞だ。
巨大な要塞が目の前に出来上がった。
たくさんの砲台を備えた、要塞だ。
天高くそびえる棟がいくつも立っており、そこにはレールが走っている。
発射台?
「おえぇぇぇぇ、ごふっ、おえっ、おええっ」
男が四つん這いで吐き散らしている。
少女は慣れているのだろう、冷静に背中をさすり、水を勧めている。
なんなのだコイツらは。
だが、明確に、彼らは私を殺す気がないことはわかる。
「お姉さん、何スープが飲みたい?やっぱりオニオングラタンスープだよね?」
男が四つん這いのまま聞いてきた。
間抜けな姿に、ふふっと笑ってしまう。
ああ、本当に久しぶりに笑ったかもしれない。頬がこんなに重いとは。
異世界転生_「土木の錬金術師」スローライフ目指して頑張ります 相楽 快 @sagarakai
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