ありがと
最後のオバケを蹴散らして出口に辿り着くと、パンパンとクラッカーが鳴って、頭の上で、くす玉が割れた。舞い散る紙吹雪。
「おめでとうございます!」
はい? なに?
「お客様、お客様方は幕張ドリームランド特設お化け屋敷の千人目の通過者です!」
「ええ~っ!」
「おめでとうございます!」
三浦とあたしは花束と山のような記念品を受け取った。
「ちょっと! エミリは?」
係員は頭を傾げた。「エミリさん、とは?」
「俺達と一緒に出て来たろうよ! 六歳くらいの女の子だよ」
「いいえ」と係員は首を振った。「お客様方お二人で出ていらっしゃいましたよ」
その後、お化け屋敷のあちこちを写している防犯カメラの映像を見せて貰ったが、写っているのは三浦とあたしだけだった。エミリはどこにいっちゃたんだろう?
しっかり手を繋いでいたのに。あたしは泣き出してしまった。
すると、年取った守衛さんが部屋の隅から歩み寄ってきた。
「わたしはここの仕事は長いんですが、こんな噂話を聞いたことがありますよ。二十年くらい前でしたか、悪い母親がいて、子どもをここのお化け屋敷に捨てていったことがあるそうです。女の子でした。その子は母親を呼んでこの中を走り回り、電線のケーブルに足を引っかけて感電して死んでしまったのです。それ以来、このお化け屋敷には、時々、迷子の女の子が現れるのだとか」
「それじゃあ、エミリは……」
「お客様方が外に連れ出してくれたので、成仏したのかも」
「そんな……」 あたしはポケットのハンカチで涙を拭いた。
「コロン、そのハンカチ」 三浦が指差すハンカチはあたしのじゃなかった。
幼稚園生が使うような小さい子供用のハンカチ。
「エミリのだ」
「きっと、ありがとって、言ってるんだよ」 三浦がニカッと笑った。
「そうかな」 そうだといいな。
初恋のお化け屋敷 来冬 邦子 @pippiteepa
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