第6話 優、キレる

〜優視点〜


「お前、俺の友達に何してんだよ。」


俺は透に迫った拳を受け止め、殴ろうとしていた不良の腹を蹴り飛ばした。


「ゴホッ、ハァハァ、そいつからケンカを売ってきやがったんだ。それなら買ってやるのが常識だろ!」

「んなこと関係ないんだよ、お前が!俺の友達に拳を振るったことに問題があんだよ、このクソ野郎が!」


俺の親しい人に危害を及ぼすなど、到底許せることではない。


「2人ともかかってこいよ、同時に相手してやる。友人に暴力を振ったこと、心の底から後悔させてやる。」


不良共が臨戦態勢に入った。

左右に1人ずつ、右のやつからやるか。


まず右の不良に上段突き、よろけたところで追撃しようとするが、左のヤツが拳を振ってきていた。

左の不良の攻撃を避け、そのまま左足を軸に廻し蹴り。

後ろに下がったところで、右の不良が起き上がり、蹴ってきたので、


藤宮彼岸流格闘術 陸型

たつ堕とし】

この技は、まるで、飛ぶ龍を落とすかのような動きをするのでこの名前が付いた。


相手の蹴りより低い姿勢をとり、

相手の蹴ってきた足に、足同士を絡ませ、

関節を固定、そのまま、足を地面に落とすことで、相手の重心が前方に傾く。すると、顔も落ちてくるので、その瞬間に、地面からほぼ垂直に、相手の顔目掛けて足刀蹴りを放つ。


この技は状況によって、殺傷能力が高くなる技だが、この場合なら死にはしないと判断し、使用した。


右のヤツは片付いたので、次は左。

廻し蹴りがまだ効いているようだが、痛みを押さえ込み、走って近づいてきた。

コイツにはまだ聞きたいことがあるので、失神させては駄目だ。

走って来た勢いを利用し、足を掛けて転ばせる。そして、


藤宮彼岸流格闘術 壱型

火車ひぐるま取り】


体の落下地点に自分の体を滑り込ませ、

自分の背中に相手の体を乗せる。そのまま、相手の首を掴み、腕ごと体を回転させるように、

相手の体を地面に叩きつける。


「これに懲りたら、他人の親しい人に手を出すんじゃねぇぞ。」


さて、この不良に聞きたいことがあるんだった。


「おい、お前の腕についている腕章、それ、

どこかで見たことがある。お前達が所属しているグループはどこだ?」

「ハッ、やっと気づいたか、俺たちはここらを牛耳る『岩噛いわがみ』組だ!俺らを敵に回したんだ、これから後悔することになるぜぇ。」

「あ、『岩噛組』ね、ちょっと失礼。」


スマホを操作して、電話を掛ける。 



「おい、石神。お前んとこの部下が俺のダチに喧嘩ふっかけたんだけど。」

『え!?まじ?誰だよそいつら〜、マジごめん!

お前のダチにも謝っていたって伝えてくれ。」

「ほんと勘弁してくれよ、今ダチと合宿の買い出し中なんだ。」

『ほんとすまん!今度飯奢るから許してけれ〜。』

「分かった、許してしんぜよう。」

『あ、あと、お前のダチに喧嘩売ったやつに代わってくんね?』

「ああ、分かった。ホラ、お前らのボスがお呼びだぞ。」


俺はスマホを不良に差し出した。

「は?ボス?は、はい、今代わりました。」

『あ、もうお前らウチにいらないわ、さっさと腕章外して消えろ。お前らは追放だ。お前らが腕章外していなくても、すぐわかるからな。』

「は、はい、わ、わかりました…。」

『じゃあ、スマホを持ち主に返せ。』


俺は不良からスマホの受け取り、

「ごめんな、急に呼び出して。」

『ああ、こちらこそ、ウチのモンがすまなかった。』


電話を切って、

「透、蔵峰さん、大丈夫だったか?怪我はないか?」

「私は大丈夫です、でも、金木君が…。」

「僕は大丈夫だよ。優君が助けてくれたから。」

「でも、口の中切ってんじゃねーか。しかも顔も腫れている。今日は病院行って来い。」

「うん…分かった、助けてくれてありがとう!」

 

遠くから誰か走って来る。


「おーい!大丈夫ー?」

「めぐみーん!大丈夫だったー?」

水瀬と相原さんだった。

俺が突然駆け出した後、追いかけてきたのだろう。


「もーう、優君は急に走り出すんだから、しかもめちゃくちゃ速いし。」

「そうだぞー。」

「ごめん、スマホをふと見たら、蔵峰さんからSOSがあったからね。」


水瀬と相原が周りを見渡して、

「で、また優君は喧嘩したんだ。改めて見ても、なんでそんなに強いのかわからないよ。」

「この二人、同時に相手して無傷とか、意味わかんねー。」

「まぁ、十数年めちゃくちゃ修行したらこうなるよ。」

「いや普通ならんよw」


〜金木視点〜


僕達が発したSOSが届いてよかった。


それにしても、優君が強いってことは、水瀬さんから聞いていたけど、まさかこんなに強いとは思わなかった。


終始、不良2人を相手に圧倒し、見たことのない技もいくつか繰り出していた。

しかも、不良グループのボスと友人なんて。

あの温厚そうな性格からは想像もできない。


「ねぇ、蔵峰さん。」

「なんですか?」

「優君って、何者なんだろうね。」

「彼が使った技に、柔道に似た技も有りましたが、少し違っていました。どのような武道をやっているのかはわかりませんが、只者ではないですね。」

「…優君のことは怒らせないようにしよ…。」


優君が皆に呼びかけた。

「今日は解散にしよう。透があの状態だ。また後日、一緒に買い出しに来よう。」


この後、優君の言う通りに解散となった。



〜〜〜〜〜〜〜〜三十分後〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「すまーん、悪かったなぁ、遅れてもうて。」

「…あれ、おらへんなぁ。」


あの後、存在を忘れられていた杉浦は解散したことも告げられないまま、待ち合わせ場所に来ていたのだった。


「金木に送ったメールも既読がつかへん。」




「あいつら、どこ行きおったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」










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マキャベリストな俺と陽キャな君のナンセンスな恋愛譚 天冥 蒼 @1088446

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