その3
「……ここなど酷いぞ『今回も無能だった警察に対して何か一言、と問われて若き名探偵はハニカミながら、いえ彼らも今回は活躍してくれました。実は橋の上の爆弾を解除してくれたのは彼らなんです』どこの新聞社もこの有様だ。どうやら我々警察は人気はないらしい」
「署長、申し訳ありません」
「謝罪はいい。それよりも、今回は黒か?」
「今回も、であります」
「信じるよ。私もあいつの事件に巻き込まれたことがある。その上で氷河君、根拠はなんだ? 物的証拠がなくてもいい。君が私怨でやつを疑ってはいないと知っておきたい」
「はっ。それは爆弾であります」
「爆弾、橋の上のか?」
「はっ」
「確かにこれは私も気にはなった。周到な殺人計画、磁石の義手に人体が溶ける毒薬、なのに爆弾は中学生レベル、チグハグだ」
「いえ爆弾のレベル自体は関係ないのであります。ただ磁石の手で時計、キッチンタイマーに触れたというのが考えられないのであります」
「針が狂い、不発か暴発か、確かに。人体改造までして念入りに計画を立てていた犯人には似つかわしくない。だが共犯ならありえるだろう」
「もちろんであります。誰もがすぐに思い至ること、だけどもあいつは触れませんでした」
「自分に取って不利益になりかねない方向には絶対に進まない。流石は現代を走る名探偵、隙がない。人気があるのも頷ける」
「ですが」
「わかっている。その推理力だけならばまだしも、ただ道を歩くだけで事件が向こうからやってくるなんて偶然、信じるようならこの椅子には座れない」
「でしたら」
「だが無理だ。少なくとも今は、奴への捜査すら許可できない。無能と平然と書いてくるマスメディアにそれを信じている人たち、身内の警察官でさえ電話一本で爆弾があると完全に信じきらせる信用だぞ? そんな相手に対して事件の黒幕だと糾弾したところで誰も信じないだろう」
「だが事実です。奴は動機のあるものに接触し計画をプレゼン、確実に相手を殺せる計画を渡す代わりに全てが終わったら真犯人として推理され、最後は口封じされる。罰を前提とした罪を犯させる、あいつは悪魔です」
「だが、だ。それを信じさせるのが無理だから君も正規の逮捕ではなく近道の射殺を選んだ。それが叶わないとなれば引いてここにいる。君だって、そこまで頑なになれるのは三番目の、いや君から見たら四番目の相棒が今際 それに匹敵する物的証拠が出てこない限り、これ以上名探偵には関わるな、と言うしかない」
「……お話は以上ですか?」
「いや。正直今していたのは時間稼ぎ、ただの世間話だ。君には釘を刺しても無意味だと学んだ。だから鈴をつけることにしたんだが遅れていてね」
「鈴、でありますか?」
コンコン。
「やっと来たようだ。入りたまえ!」
「ピピッ。シツレイシマス」
ギィ。
「署長? これは?」
「新しい相棒をこれと呼ぶな」
「……署長?」
「君もそんな表情をするのだな。紹介しよう。アンナだ。極秘で開発された警備補佐用ドローンのヒューマノイドタイプ、だったかな?」
「ピピッ。ソノトーリデス」
「要するにロボットだ。まだ稼働したばかりで実戦経験は一切なし、これから諸々学習予定だ。氷河君には彼女の相棒としてサポートしてもらう」
「署長!」
「残念ながらこれは命令だ。仲良くしたまえ」
「ピピッ。ヨロシクオネガイシマス。あんなデス」
「…………氷河だ。ヨロシク」
氷河湧山の勤務記録 負け犬アベンジャー @myoumu
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