第26話策士イルマの罠
チュッ、チュッという音は脳髄をなぜああも刺激してしまうのだろう……。
俺はこの命題を解く前に12才にしては圧倒的な色気のあるイルマに骨抜きにされそうである。
ベネット似の美人でもあるし、村ではあり得ない栄養供給と美容により、肌はすべすべ柔らかく黒髪も光の輪と呼ばれる光沢を放っている。
唇で触れるイルマの唇は鮮やかでふわっとして甘い。
やべぇ、磨きすぎた。
まだ未成年と唱えつつも、歳の差1歳だから無問題だ、と悪魔がサンバのダンスを脳内で踊る中。
生活費のお礼にとイルマから何度も唇にキスをもらった。
なんなら今も唇を重ねている。
ベネット監督によるイルマへの手解き以来、俺とベネットは身体を重ねてはいない。
代わりにではないが、ソレがアレでそういうアレコレはイルマが肩代わりしている。
「いよいよ、我慢できなくなったら、お義母さんの世話もお願いね?」
ベネットはイルマの前でそんなことを宣言する。
それにむくれながらもイルマはダメとは言わないが、今のところソレは必要ないようだ。
もちろん、ギリギリのラインでイルマに手は出していない。
……俺がイルマに手を出されているだけだ。
俺はいつ婿に来てしまったのだろう?
なお、ウチの家族の方でも俺はすでに半分ベネット家に婿に行っている認識なのかもしれない。
「ただいま〜」
この間、そう言って久々のウチに帰ると、母が出て来て首を傾げながら尋ねた。
「あら? なにか用事?」
俺の家はすでにベネット家だったらしい。
隣の家で入り浸ってるし、そりゃまあ、ベネット家の母娘共にアレやコレや関係持ってるけど。
そもそも隣と同じ間取りでウチは兄母弟妹の4人+俺。
ちょっと手狭であり、隣は女だけの3人暮らしなのだ。
防犯上、男手がいないのもよくない。
なので弟と妹の学校代金の話をしてから、ウチを出て隣のベネット家に足を運ぶと。
「おかえり〜」
すると新妻よろしくイルマが出迎えてくれた。
どうやら俺は帰る家を間違ってたらしい(混乱中)
俺はいつのまにか隣に引っ越してしまったこと以外は、生活については順調だ。
山椒の実と冒険者の遺品で学校費がなんとかなったのが大きかった。
ギルドに擦り切れたタグを持って行くと、故人となった持ち主はベルマークさん30歳ソロ冒険者C級だった。
30歳を越えていながら、ソロであるのだからそれなりに訳ありというか人付き合いが得意な人ではなかったようだ。
他に遺品はないかと問われたが、ないと答える。
死体から装備を取るかどうかは特に規定はない。
遺品としてギルドに提出したところで、ギルドが金に変えるだけのことだ。
基本的に冒険者はパーティを組んでいたりしない限り身寄りがない人も多いし、ギルドに借金をしている人も多い。
例外的に家族がいれば遺品を求めることもあるが、特に引き渡す必要はない。
それらも含めて死んでしまえば、自己責任という名の放置プレイだ。
じゃあ、ひと財産になる装備を持つ冒険者殺しをする奴も増えるかと思われがちだが、冒険者は男も女も少なくとも荒事に慣れている。
前世で言うなら傭兵、警察、ヤクザを強盗しようとする輩がまずいないのと同じだ。
ヤクザ同士なら争うかもしれないが、それだって利益が相反したりであって、強盗目的であることはまずない。
狙うならまず抵抗力の弱い市民だろう。
遺品をギルドに提出義務はないが、これも微妙な匙加減も必要だ。
ギルドはいってしまえばヤクザでいう親分みたいなものだ。
ギルドに心付けとして1番高い遺品を納めて後はお目こぼしをしてもらったり、なにかあった際の後ろ盾として印象を良くしたりするのだ。
言ってしまえば、冒険者の中で1番儲かるのは親玉であるギルドだ。
なので、そこのギルド員というのは高級取りであると同時に、それらの目利きの出来る優秀な人材ばかりだ。
今回のベルマークという冒険者は、それほど金になる装備や道具を持っていないのは周知の事実であったのと同時に、俺たちに対する将来の投資の意味もある。
ゆえに、ギルドから頼まれごとがあった場合、おいそれと断るという選択肢を無くすことでもあった。
それでも俺は今回、そこを理解したうえで目先の金を優先させてもらったのだ。
これでどうにか早急に必要な金の目処はついた。
ベネット家への投資分は今後、イルマが俺に身体で返していくことになる。
イルマ側から見れば、俺を既成事実で囲い込んだだけの気がしなくもないが……。
きっと気のせいだ、そうに違いない……。
ブレイク物語〜滅亡が決まった世界でいかに楽しんで生きるべきか〜 パタパタ @patapatasan
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