最終話 三人の旅はまだまだ続く
かっぽ かっぽ かっぽ かっぽ
カラカラカラカラ
馬の蹄が奏でるリズム。
馬車の車輪から流れる軽やかな音。
草原に伸びる石畳の街道を馬車がのんびりと走っていた。
ムタナークの街で三日ほど過ごした三人は、ギルドマスター・カイの好意で、次の街まで馬車で送ってもらえることになったのだ。
カイやミルル、ザグラス、そして多くの住民たちに見送ってもらいながら街を離れる馬車。街はもう見えなくなってしまった。
随分と濃密な三日間であり、リズの思いや苦しみを知ることができた貴重な三日間でもあった。
馬車は荷馬車だったので座席はなく、それぞれ床に座っている。
「ナオキ様」
「ん?」
「カイ様は、ミルルの気持ちに気付くでしょうか?」
「多分気付いていると思うけど……年の差も大きいし、感謝の気持ちと、恋心とを履き違えてしまっているかもしれないとカイは考えているんじゃないかな?」
「ミルルは恋愛経験に乏しそうですしね」
「ふたりのペースで距離を縮めていければいいね」
「はい、わたくしもそう思います」
「ところで、リズ」
「はい」
「そろそろ離れてくれると……」
ナオキにぴったりくっついているリズ。
「あら、わたくしを笑顔にしてくださるのでは?」
「いや、まぁ、そう言ったけどさ……」
そんなふたりを嬉しそうにニコニコしながら眺めているアラゴ。
そんなアラゴに、不満そうな表情を向けたリズ。
「アラゴ」
「あう?」
「わたくし、言いましたよね」
「?」
「『自分の気持ちを無いものにするな』って」
「あ、あうぅ……」
困惑するアラゴの腕を掴んで、自分たちの方へ引っ張り寄せるリズ。
「あうぅ!」
そんなアラゴと、そしてナオキを抱き締めるリズ。
その顔には心から安堵している幸せそうな微笑みが浮かんでいた。
突然のことに驚くアラゴとナオキだったが、ふたりにも笑顔が浮かぶ。
抱き締め合う三人。
嬉しそうに抱き締め合う三人を、少し後ろを振り向いて横目で見た馬車の御者。その幸せそうな姿に思わず自分も微笑んでしまう。
アラゴの胸に頭を寄せたリズ。
「アラゴの胸、大きいなぁ♪」
「ふふふっ、リズ、赤ちゃん」
リズの頭を優しく撫でるアラゴ。
そんなふたりを優しく見守るナオキ。
が。
「あうぅっ!」
突然顔を赤くしたアラゴが声を上げる。
「リ、リズ」
よく見ると、リズは
「ええのんか? ええのんか? どないやアラゴ」
「リ、リズ、ダメ……」
「オッパイは、赤ちゃんのもんとちゃうんやでぇ」
「あ、あうぅ……」
「オッパイは、リズ様が吸うためにあるんやでぇ♪ うひひひひひ」
だらしない下品な笑みを浮かべているリズ。
これが将来「エリザベス・ルール」の立役者として世界中の人々から
「このたわわに実ったオーガの果実! リズ様が優しく美味しくいただいてあげますわ! さぁ、ご開帳~♪」
バシンッ
アラゴの身につけていた
「リズ」
「は、はいっ!」
「お前、やっぱ追放。アラゴ、やれ」
「あうっ!」
アラゴに抱きかかえられるリズ。
「あらあらあらあら」
ポイッ
「あーれー」
ごろごろごろごろ ドテッ
馬車から放り出されたリズ。
「御者さん、すみません。少し馬車の速度を上げてください」
「あいよー」
これまでのやり取りを笑いながら横目で見ていた御者は、馬車の速度を上げた。
カポカポ カポカポ カポカポ
ガラガラガラガラ
「きゃ〜っ! お待ちくださいませ〜、ナオキ様〜、アラゴ〜」
慌てて追いかけてくるリズ。
それをしらけた目で見ているナオキとアラゴ。
「アラゴ、次の街では何食べようか」
「あぅっ! ステーキ! 大きいの!」
「大きいステーキか! よし一緒に食べるか!」
「あうぅ〜♪」
「わ、わたくしも食べますわ〜! ふたりと一緒に食べたいですわぁ〜!」
慌てふためきながら追いかけてくるリズの姿に、思わず吹き出して、大笑いしてしまうナオキとアラゴ。
ふたりは走ってくるリズに笑顔で手を差し伸ばし、リズもまた笑顔でふたりの手を掴んだ。
(わたくしの大切な、そして大好きなふたり。この手は絶対に離しませんわ!)
ナオキとアラゴ、ふたりもまたリズと同じ思いだった。
剣道の達人だけどチートは持ち合わせていない勇者ナオキ。
心に傷を抱えているお調子者で娼館出身の聖女リズ。
半神を凌駕する力を持った誰よりも心優しい鬼女アラゴ。
どこか不釣り合いで、でもしっかりと絆が結ばれているデコボコ三人組の魔王討伐の旅はまだまだ続く。
− − − − − − − − − −
前作『勇者と聖女と鬼女』絶賛公開中です!
本作はリズがメインですが、前作はアラゴがメインとなっております。
心優しき
https://kakuyomu.jp/works/16818093080188626161
勇者と聖女と鬼女 ふたたび 下東 良雄 @Helianthus
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