第6話
レアンナ様!大丈夫ですか!?」
「…あれ、?カミラさ、」
「良かった、意識はあるようですね」
力が入らず横たわる中、カミラさんは優しく毛布を掛けてくれた。
今更だが、いつの間に旦那様は私の上から退いたのだろうか。
そもそも、カミラさんはいつの間に部屋に入って来たのだろう。
「おい、バカ主人。お前何やってんだ」
「ちょ、違うアドルフ。1回話を聞いてくれ」
「話を聞いてやってもいいが説教の長さは変わらんからな」
少し遠くで旦那様とアドルフさんの会話が聞こえる。
「…アドルフさん、口悪くないですか」
「大丈夫ですよ。普段は猫被っていただけなのでアレが素に近いですし」
そう言ってスープを差し出してくれたカミラさん。
お礼を言って飲むために上半身を起こすと、彼女の後ろで何かが揺れるのが見えた。
それは細くて長い猫の尻尾。
「え」
「どうされました?もしかして座るのも辛いですか?」
「…何か尻尾のような物が見えるのですが」
ひょこひょこと動く尻尾を指させば、カミラさんは納得したように頷いた。
「私のものです」
「まさかカミラさんも人間ではないんですか…?」
「残念ながら私だけではなく、アドルフも人間ではありませんよ」
カミラさんの視線につられてアドルフさんの方を見ると、背中から大きな翼が生えていた。
鳥類を思わせるような翼は手入れが行き届いており、遠目ら見ても美しい。
「彼はふくろうの獣人です」
「じゅうじん?」
「人間の特徴と動物の特徴を併せ持った生物のことを私たちの世界では【獣人】と呼んでいます。色々なケースがありますが、彼は同種の中でも長寿だったため獣人となりました」
そこで一度区切ると、カミラさんは私に向き直った。
「改めて自己紹介させていただきますね。私の名前はカミラ。猫の獣人としてアドルフと共にご主人様に仕えています」
「カミラさんも長生きだから獣人に?」
「…いえ、その…、えーっと」
「カミラは僕が獣人にしたんですよ」
いつの間にか近くに来てくれたアドルフさんが笑いながら教えてくれた。
気まずそうに顔を背けるカミラさんに首を傾げてしまう。
「カミラは普通の猫でしたが、僕が惚れ込んで獣人にしました。散々断られましたが何せ諦めが悪いもので」
「……3歳の頃から毎日付き纏われたら流石に折れるわよ」
「19歳まで粘った胆力にも惚れたんだけどね」
「はいはい、もうその話はいいから」
アドルフさんの言葉を遮るようにカミラさんが言葉を被せる。
何だかんだ言って仲が良さそうな2人の掛け合いに思わず笑ってしまう。
「じゃあお二人は今おいくつなんですか?」
「僕は300…あれ、いくつだっけ」
「アドルフが367歳、私が159歳です」
「え、お二人とも100歳を超え…えっ!?」
「獣人の中では100歳は若い方ですよ」
アドルフさんはカミラさんに頬ずりをしているが、カミラさんは慣れた様子で引き剥がす。
「ちなみに人外の中での100歳は人間でいう赤子のようなものです」
「ご主人様は1700歳を軽く超えていますよ」
驚きのあまり旦那様を見やると、床に正座したまま小さく震えていた。
「ア、アドルフ…足が痺れて、」
「反省しました?」
「したした!もう十分にしたから!!」
「…本当に1700歳超えてるんですか?」
「今は威厳が無いように見えますが、ご主人様は『純血の家系』と呼ばれる高い階級の吸血鬼です。命の長さだけでなく、全てにおいて私たちとは比べ物にならない程強いですよ」
旦那様は呻きながらソファーに移動すると、ぐったりと倒れ込んでしまった。
「旦那様は大丈夫なんですか?」
「先ほどまでアドルフに説教されていただけなので大丈夫ですよ。旦那様は東洋の正座という姿勢が苦手なようで、説教の後はいつもあんな感じです。時間で良くなるので放っておいて問題ありません」
「そうです。それよりも、レアンナ様は大丈夫ですか?吸血されすぎて酷い貧血を起こしていましたよ」
どうやら手足の痺れは旦那様に吸血されすぎたことが原因だったようだ。
2日連続で血を抜かれたわけで、その間に食事もなかったから体が追い付かなかったのだろう。
「人間は脆いと何度伝えても会心の様子が見られなかったので説教にはいい機会でした」
どこかすっきりした様子のアドルフさんを見て苦笑いしてしまった。
旦那様が私に無関心なので婚約破棄を申し出たら気を遣われていたことが発覚しました。え、これからは我慢しないってどういうことですか!? 宮野 智羽 @miyano_chiha
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