3 ストレンジャー
僕は
そんな僕には二歳年上の恋人が居る。同棲はしていないが、付き合って一年になり関係は良好だ。だが、彼女は家族の話題だけは避けているようだった。なにか理由があるのだろうと思い、僕も深くは聞かないようにしていた。
ある日、
『そろそろ、私の家族に会ってほしいな』
改まった様子で、彼女から電話がかかってきた。そういう時宜が来たのだろう。僕は詳細を聞かず、彼女が設定した日時を受け入れた。
当日。
待ち合わせ場所のレストランにやってきた彼女。その背後に居たのは、険しい表情をした男性の霊だった。僕はすぐに彼女の守護霊――お父さんなのだと思った。彫が深く、厳格そうで一家の大黒柱だった面影がある。
彼女が家族の話をしなかったことを悟り、かしこまって一礼したが、お父さんの霊は僕をずっと睨んでいた。亡くなっても一人娘が心配なのだろう。健気で、また真摯な心持に胸打たれた僕は『娘さんは僕が守ります』と誓った。
「緊張してるの? とりあえず入ろ」
そうして、彼女の催促に合わせて入店した。
「お父さん、厳しそうな顔してるけど本当は面白い人なの」
ボックス席に着くや否や、彼女が本題を持ちかけてきたので、僕は悟った表情を見せ、「キミのことが今でも大事なんだよ」と優しく返した。彼女は安堵を見せたあと、「もうすぐ来るから」と笑みを浮かべた。
「もうすぐ来る? え、誰が……」
「誰って、来るのはお父さ――あ、ほら来た」
会話にズレを感じ始めた時、彼女はウエイトレスに案内される男性に「こっちこっち!」と手を振った。
近づいてきたのは厳しそうな顔つきの、白髪混じりの男性で――
「待たせてスマン。あぁ、キミが娘の婚約者の三村君だね。誠実そうで良い感じじゃないか、はははっ!」
僕を見るや、コミカルな動きで挨拶してきたのだ。
「ちょっと、まだ結婚の話は早いって! すぐそうやって話を進めちゃうから、会わせるの渋ってたのよ」
「嫁の貰い手が現れたと思うと、舞い上がってしまってな。ん、どうした三村君? なんだか明後日のほうを向いているようだが」
目の前で繰り広げられる親子の会話が、まるで耳に入ってこなかった。
「そりゃそうでしょ。彼、緊張してるのよ」
「そりゃそうだな! まあ気楽にしてくれ、はははっ!」
そりゃそうだ。彼女のお父さんは亡くなったと思っていたのだから。
――では彼女に取り憑き、僕をずっと睨み続けているこの霊は誰だ?
ちっちゃいホラー① 常陸乃ひかる @consan123
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