2 アナザーフェイス

 俺の名前は二宮みのみや

 小中高時代は霊能体質で、学校に棲みつく幽霊と仲良くなっては、ケンカをしたり、飛び降り自殺で頭が半分割れた女子の霊に告白されたりと、甘酸っぱい経験をしてきた。誰も信じてくれなかったが、俺の大事な思い出だ。

 しかし、大人になるにつれて力が薄れてゆき、成人した頃には霊能をすっかり忘れていた。


 二十代半ば。転職を機に、七階建ななかいだてのマンションに引っ越した。狭い間取りも、最上階からの眺めも割と気に入っている。

 引越から一週間が経った金曜の夜。その日は歓迎会の帰りで、家に着いた時には二十二時半を回っていた。やや千鳥足でエントランスを抜け、エレベーターのボタンを押すと、七階で止まっていたそれが動き出した。

 扉が開くと中には、ひとりの女性が乗っており、その人が下りるのを待っていたのだが、女性は動く気配がなかった。

 その様子を窺っているうちに、俺はあることに気づいた。女性には生気がなく、うっすらと透けているようだったのだ。そこで、のだと確信した。

 そうであれば下りるのを待つ必要はない。俺は箱に乗りこんで七階を押すと、最上階に着くまで女性を観察した。一昔前の流行に倣って白い服を着、黒の長髪で顔を隠し、床を見つめるだけの――典型的な『居るだけ系死霊』である。

「どもー。ここに棲んでるの? 恨み系? 自縛系?」

 当然、こちらから話しかけても反応はなかった。


 翌月曜。

 出勤、退勤の時にその霊は居なかったが、火曜日――帰りが遅くなった二十二時前後、彼女はエレベーター内に立っていた。同様に水曜日も同じ時間に姿を現したので、どうも時間が関係しているようだ。また、うつむいた彼女の顔が徐々に上向きになっていたので、週末にはご尊顔を拝めるかもしれないと、淡い期待を抱いた。

 迎えた金曜日。

 遅めに帰路につくと、マンションの前にはパトカーと救急車が停まっていた。不穏な空気を感じつつ、足早にエントランスへ向かうと、奇声を発する女が警察に取り押さえられているではないか。

 その顔に見覚えはなかったが、

「あの恰好……?」

 血に染まった白い服と、長い黒髪は、俺がエレベーターで見たものと完全に一致していた。


 のちの報道で知ったのだが、加害者は元恋人を殺害するため、毎日同じ時間にエレベーターで待ち続けていたらしい。

 俺の目に焼きついた、『本物』のおぞましい尊顔を思い出すたび、恐怖と同時に強い羞恥に襲われる。

 霊能体質とは――

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