両まぶたのホクロが目みたいだから目を閉じて心眼生活してたんだけどついにバレた

舟渡あさひ

両まぶたのホクロが目みたいだから心眼生活してたんだけどついにバレた

「というわけで、『舞姫』は創作でありながら、森鴎外自身の体験を元に書かれとってな」

「zzz……」


「鴎外帰国後、女性が追いかけるように来日して来とんねん」

「zzz……」


「一途なもんやでぇ……あんたらこーゆー子に好かれたら手放したらアカンで?」

「zzz……ンゴッ」


「昨今はすぅぐメンヘラやなんやっていけないことみたいに言う若者も多いけどな、一途に人を想えるってステキなことなんや」

「zzz……」


「いや、別にセンセが三連続で彼氏に浮気されて別れてるからってそう言っとるわけちゃうよ? 一途ってな美徳なんや」

「zzz……フゥン」


「男も女も真面目に誠実に生きなな。目芽めめなんか立派なもんやんか。なぁ目芽?」

「zzz……? はい!」


「聞いたか今の元気な返事! ほれ加藤! あんたも居眠りこいてないで目芽を見習いぃ!」

「zzz……スピスピ」


「ほれ、授業戻るで。えーと、何ページやったかな……」



 ▼▼▼



 ――キーンコーンカーンコーン――


 はっ! 放課後!

 んあ〜〜〜〜〜〜っ、よくねた。


 さて、帰って寝るかぁ。


「目芽〜! 一緒に帰ろ!」

「ん〜」


「今日も疲れたねぇ〜」

「ねぇ〜」


「そういや今日、あんた褒められてたじゃん。さっすが真面目一徹の目芽だね〜」

寧々子ねねこも真面目じゃん。今のところ皆勤賞だし、成績もいいし」


「えっへへ〜まあね! すごいっしょ〜」

「うん、すごいすごい」


「へへへ……授業といえばさ、目芽はどう思う? エリスみたいな女の子とか……」

「ん〜? いいんじゃない? 先生も言ってたけど、一途なのは美徳だと思うな」


「そっか……」

「『あなたを殺して私も死ぬ!』まで行くとちょっと怖いと思うけどね」


「そっか……ねえ」

「ん?」


「あの、さ」

「うん」


「あたしも……小学生の頃からあんたのこと好きだったんだけど……とか言ったら、どうする……?」

「えっ」パチッ


「え? きゃああああ!?」

「あっ」オメメトジ


「え!? 今、えっ!?」

「な、なに? どうかした?」


「目! 今、目! 開かなかった!?」

「……ズット、ヒライテルヨ」


「そうだけど!? え? 人の目って、二段階開くんだっけ……? そんな訳ないよね?」

「ままま、まさかあ」


「そうだよね……なんだったんだろ。あたし疲れてるのかな……」

「そうかもね。早く帰ってゆっくり休もう」


「うん、そうする」

「そうしよそうしよ」ウンウン


 ……セーフ! バレてないバレてない。


「……それでさ」

「ん、ん? まだなにか?」


「いや、だからさ……」

「う、うん」


「……………………好き、なんだけど」

「えっ」パチッ


「きゃああああ!? やっぱり開いたあああ!?」

「アッヤッベ」オメメトジ


「今やっべって! やっべって言ったよね!?」

「イッテナイヨ」


「嘘つけ! ちょっとよく見せなさい! どういう構造!?」

「マッテ、イタイイタイ」


「………………黒子ほくろ?」

「うん……」


「え? なん、え? 黒子?」

「…………」


「え? ずっと目瞑ってたの?」

「……………………うん」




「……なんで?」




「いや、生まれたときから、こういう黒子でさ」

「う、うん」


「小学生のとき、タケシに一発芸として見せたんだ。『まぶたに落書きして起きてるフリするやつ〜!』って」

「ああ、タケシくん、仲良かったもんね」


「うん。それで、バカウケしてさ」

「う、うん」


「次の日試しに目を瞑ったまま教室に入ってみたらさ」

「うん」


「バレなかったんだよね」

「なんで???」


「さあ……でも寧々子も気づかなかったでしょ?」

「まあ……えっ、でもあたし、あんたの雰囲気が急に変わったような気がして、それからあんたのこと気になるようになったんだけど……」


「うん……多分それ、その日だね……」

「えぇ……うそ…………」


「全く気づかなかった?」

「……成長期かなって……」


「……目を瞑っただけだね」

「そんなバカな……」


「えっ、じゃああたしが『下まつげ長いなぁ〜』って思ってたのも……?」

「上まつげだね」


「マジで? なんで気が付かなかったんだろ……白目もないのに……一回気づくともう黒子にしか見えないのに……」

「それは俺もホントにわかんない」


「ていうかそれ、前見えてるの?」

「そこはほら、心眼があるから」


「なにそれ?」

「なにって……心の眼?」


「……なにそれ?」

「ごめん。俺もよくわかんない。けど頑張ったらなんかできた」


「えぇ……じゃあこれは?」

「ピース」


「これは?」

「サムズアップ」


「これは?」

「無●空処」


「えぇ……何で見えんの……?」

「いや、見えるっていうか、〝理解わか〟るんだよね」


「は?」

「なんでもないです」


「ていうかズルくない? それ。授業中居眠りし放題じゃん」

「なんなら今日もずっと寝てたね」


「マジ? え、でも現代文のとき先生が言ったことさっき覚えてたじゃん」

「俺、寝てるときに聞いたこと7割くらいは覚えてるんだよね」


「マジ? すごいじゃんなんで?」

「さあ……心の……耳?」


「心ってつけたらなんでも許されると思ってない??」

「……ちょっとだけ」


「ていうかちょっと待ってよ。じゃあもしかして、この間の図書室の……!」


「……いや、それは覚えてないよ。俺が居眠りしてるからって、『フフッ、可愛いなぁ』とか『あたしの気持ち、気づいてないんだろうなぁ』とか言ってたことなんて、全然覚えてないよ」


「あああああああああああっ!」

「寧々子ー!?」


「ああああああっ! あああああああーーっ!!」

「寧々子ごめん!? ごめんほんとに!」


「なんで机に突っ伏して寝てるのよおおお! 何のための黒子よおおお!!」

「それは俺悪くなくない?」


「うぅ……いっそ殺して…………」

「ご、ごめんって。お詫びに俺にできることならなんでもするから。ね?」


「ほんとっ!?」

「うわ言わなきゃよかった」


「えへへ〜! 何にしよっかなぁ〜」

「これ普通に詐欺じゃない?」


「んふふ〜……ねぇ、目芽?」

「なんでしょう……」


「……目、見せて」

「え」


「いいでしょ? さっきは一瞬しか見えなかったし」

「いや、でも、恥ずかしいし……」


「いいじゃん。あんたもあたしの恥ずかしいとこ聞いたんだから、これでおあいこ。ね?」

「うぅ……一瞬、一瞬だけだからね」


「はいはい。ほら、早く早く」

「くそ、これでどうだー!」


「わぁ……これが……」

「うぅ……」


「なんていうか……目閉じてた方が、つぶらで可愛いね……?」

「ウッッ!?」


「あっごめん!? かっこいい! 目開けてるのもかっこいいよ!?」




「いや、久々に目開けたからめめくそが目に……」

「目ヤニのこと言ってる???」




 ▼▼▼




「ふぅ、やっととれた」

「公園の水飲み場で目ヤニ取る人初めて見たよ」


「それで、さ」

「うん?」


「返事、なんだけど……」

「返事? 何の?」


「さっきの、告白、の」

「あっ!? ああ、あれ…………」


「あの、俺も、寧々子のこと――――!」






「ごめん、やっぱり一回考え直させてもらっていい?」

「あっれぇ!???」

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両まぶたのホクロが目みたいだから目を閉じて心眼生活してたんだけどついにバレた 舟渡あさひ @funado_sunshine

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