黄色のナーシサス

蒼井 狐

第1話

 何故あなたは薄っぺらな「エモい」が好きなクズを好むの。私は、チョコを溶かすような熱くて甘い恋をしたいだけなのに。

 あなたは、あいつと付き合って、傷ついて、泣きながら私に相談して、怯えて、あいつのところへ戻っていく。なんであいつの元へ戻るの。私じゃダメなの?

 私は酒もタバコもセックスも、エモいなんて言葉で括らない。

 傷ついた時だけ都合良く自分のことを悲劇のヒロインだなんて思わない。それでも私よりあいつを選ぶあなたのことが、理解できない。

 毎回私に相談してくる時にあなたは言ってるよね。

「一途に愛してほしい。もう傷つきたくない。しんどい。メンタルが安定しない。好きじゃないかもしれない」

 あなたが傷ついて、でも会った時には良くしてくれるから、あいつに依存してるんだよ。感情を揺さぶられて、抜け出せなくなってる。DVってやつ。

 あなたと付き合ってるあいつなんて中身が全くない人間にしか見えない。それっぽいこと言うだけだし、良いこと言ってるように見えて、ただ偉人とか有名人の言葉を丸パクリしてるだけの形骸化人間なの。それに比べて私は必死に考えてる。世の中で当たり前に言われてるようなことも鵜呑みにせずに、自分が体験してきたことを元に判断してる。なのになんであいつの言葉に騙されちゃうの。からっぽの入れ物に濃い口紅してるだけじゃない。あいつは自分のクズさに酔ってるだけなのになんで気づかないの。周りとは違うふうを装って、特段好きでもないインディーズのバンドの歌詞に自分を重ねただけのナルシストが好きなの?

 どうせ「周りとは違うふう」を「装ってる」だけだから、ふとしたところでボロが出て格好もつかなくなる。そういうやつはハリボテなの。引き出しが少ないからすぐに味もしなくなって、年だけを重ねた値打ちのないアンティークになるの。そんな身の上のくせに、私の大好きなあなたをあいつはアクセサリーにしてる。自分の思う理想のクズな自分を演出するためにあなたを使ってるだけ。恋がうまくいかない場合なんて、大抵どっちかが恋人のことをオートクチュールか何かだと思ってる。

 あいつがクズなんだからさ、あなたもやり返しちゃえば良いんじゃない。簡単なこと。私のところへ来なよ。それであいつを捨ててくれたら、私もあなたも救われるような気がしてならないの。だってそうでしょ? あなたはあいつと付き合ってたらしんどいんだよね、あいつと付き合ってる理由もわからないんだよね。毎回言ってたことでしょ。嘘だなんて言わせない。後になってから、

「そういう意味じゃない」

 とか言われても信じないから。

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