第8話 最終話





 始業式から数ヶ月が経ち、俺は暇を見ては異界へとやってきていた。


 俺の復讐はまだ続いている。


 伊川本人が死にたくないと言ったのだ。だから俺の復讐も終わらない。


 しかし、困ったことが一つあった。



「王サマ!! 王サマ!!」



 一匹の小鬼が駆け寄ってきて、俺を王と呼びながら目の前で平伏する。


 俺は小鬼から王様扱いを受けていた。


 というのも、俺が小鬼にいくら食べても無くならない食料を提供したからだ。



「だから王様じゃないって。で、どうしたんだ?」


「ニンゲン、また気絶シタ!!」


「また? 分かった、行くよ」


「アリガトウ!! アリガトウ!! 王サマ、ダイスキ!!」


「小鬼に好意を抱かれてもな……」



 俺が向かった先には小さな村があった。


 この村には俺を慕う小鬼や大鬼が生活しており、微かながらも文明を築いている。

 村の中央には広場があり、そこには一人の男が吊るされていた。



「……ぁあ゛……あ゛……」


「ははは。また一段と酷くなったな、伊川」


「っ゛、ごろ゛ず!! お゛前ごろ゛ず!!」



 その男は伊川だった。


 俺に気付いて意識を取り戻し、明確な殺意を向けてくる。

 手足が小鬼たちに食い千切られているが、傷口が蠢いて再生した。


 真白の妖術で回復しているのだ。


 それをまた小鬼や大鬼たちが千切って家に持って帰り、調理して美味しくいただいているらしい。


 俺はこの状態の伊川を見て、いつも思う。



「やりすぎたかな? ま、やめないけど」



 復讐を実行した当初は頭に血が昇っていて非情な真似もできたが……。


 冷静になるとどうかしてる。


 しかし、ここまで凄惨な光景を見ても動じないのは俺自身がやったからか、それとも俺が人間ではなくなったからか。


 ああ、そうそう。


 俺はいつの間にか人間を辞めていた。真白と似たような存在になったそうだ。


 狐の耳と尻尾は生えていないがな。


 それに真白と同じ時間を生きられるという意味では後悔はない。

 でも父さんとはいつかお別れしなければならないから、最近は一緒に過ごすようにしている。


 まあ、父さんはちゃっかり神成さんがいじめに加担した証拠写真やらを使って、彼女の父親の会社を乗っ取ったらしい。


 最近はいっそう忙しくしている。


 お陰で俺は婚約が解消されたし、真白を父さんに紹介することができた。


 真白の尻尾や耳をもふろうとした時はぶん殴ってしまった。

 真白の耳も尻尾も俺のもの。例え父親でも絶対に触らせはしない。


 なんてことを思い出していると、一人の小さな女の子が俺に気付いて駆け寄ってきた。



「わー!! 王サマだー!!」


「うおっとと、急に飛びついてきたら危ないぞ」


「えへへ、ゴメンナサイ!!」



 俺に抱きついてきたのは、小鬼の少女だった。


 非常に可愛らしい容姿をしており、肌の色は人に近く、額に小さな角が生えている十歳くらいの女の子である。


 俺の知る限り、小鬼はゴブリンみたいな醜い容姿をしている男型のみ。


 では小鬼の少女はどこから来たのか。


 答えは至極単純。

 人間の女と小鬼がまぐわった結果、小鬼の少女が生まれたのだ。


 では人間の女とは誰だろうか。



「旦那様っ!!」


「あ、真白」


「妾は旦那様がハーレムを作ることに賛同じゃが、流石に産まれて間もない子供に欲情するのはどうかと思うのじゃ!!」


「い、いや、欲情はしてないぞ!?」



 小鬼は成長が早いらしい。


 小鬼の少女もその性質を持っており、実は生後一ヶ月も経っていない。


 流石に生後一ヶ月の子供には興奮しない。



「むー!! わたし、もう赤ちゃん孕める!! 王サマの赤ちゃん産みたい!! お妃サマに負けない!!」


「くふふ、妾に宣戦布告とは見込みがあるのじゃ。しかし、旦那様は妾のもの。絶対に渡さぬのじゃ」



 何故か小鬼の少女と張り合う真白。



「どこ行ってたんだ、真白?」


「くふふ、聞きたいのじゃ? ちと小娘をいじめておったのじゃ♡」


「……まあ、程々にしておいてね?」


「うむ!! この前はうっかり手足を――」


「聞きたくない聞きたくない」



 真白の言う小娘とは、神成さんのことだ。


 俺は復讐を決行した日以来、神成さんとは会っていない。

 真白が異界のどこかに隔離して小鬼と交配させたり、拷問したりして遊んでいるらしい。


 彼女への復讐は始業式の日に済んでいるので、俺の知ったところではない。



「で、あの子はどうしてる?」


「む? ああ、陰陽師の小娘かの? 元気に抵抗しておるのじゃ」


「何回も言ってるし、分かってると思うけど……」


「分かっておる。あと少しで記憶の一部を消す妖術が完成するのじゃ。それを掛けたら現世に帰す予定じゃな」



 あの日、復讐の舞台となった始業式。


 心神喪失した神成さんを真白が回収しようとしたら、陰陽師の襲撃を受けたそうだ。

 まず陰陽師が実在していることにツッコミたいが、そこは無視する。


 そして、真白の邪魔をしたと言う陰陽師が校舎裏で俺にカツアゲの現場を撮影した写真をくれた安立晴子だったのだ。


 どうも真白が封印から解かれたことに気付いた陰陽師連盟とやらが送ってきた刺客らしく……。


 でもまあ、俺は彼女に何の恨みもない。


 むしろ自分の使命を全うしようと真白に立ち向かったわけだし、始業式での出来事を忘れさせて解放しようということになったのだ。


 真白の妖術開発が順調なようで何よりである。



「のう、ところで旦那様♡」


「ん?」


「妾、今ちょっと孕みたい気分なのじゃ♡」



 あまりにも唐突だった。


 真白の柔らかいおっぱいが俺の腕に押し付けられて、むにゅっと形を歪める。



「旦那様のレベル、ちょうど100になったじゃろ?」


「あ、ああ、ついさっき……」


「妾ぁ♡ 旦那様の赤ちゃん産みたいのじゃあ♡」


「……」



 そんなことを言われたら、俺とて我慢できるはずもない。



「真白、今夜は寝かさないぞ」


「それはこちらの台詞なのじゃ♡ あらゆる年齢、あらゆる格好、あらゆる性格の妾の分身で旦那様を搾り尽くしちゃうのじゃ♡」



 俺はこうして真白と結ばれることになった。


 この後、娘が十人生まれて全員が俺の貞操を狙ってきたり、鬼っ娘たちから求められたり、本格的に異界に国ができちゃったり、大変な思いをするわけだが……。


 まあ、それは機会があれば語るとしよう。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「終わりです。ちょっと強引ですけど」


正宗「ばいばーい」



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いじめっ子と浮気した婚約者の不幸を神社でお祈りしたら妖狐様が嫁になりました。~異界レベルアップでざまあします!~ ナガワ ヒイロ @igana0510

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