実技試験①

「──綺麗に出来てるな。」


 ミレアはブローチを手に、そう言った。


「ありがとう。これは私の自信作なの」


 そう言うとルビーは微笑む。


 ミレアの手にあるブローチは、ルビーが趣味で自作したものだという。そのブローチは店頭に並んでいても違和感がないほど、精巧に作られていた。特徴といえばブローチの真ん中に赤く大きな宝石がはめられていることだ。


「ボクも持ってるよ!ルビーが作ってくれたんだ」


 そう言うとルカがブローチを見せる。赤いブローチと同じ装飾だが、真ん中の宝石の色が青色をしている。


「手先が器用なんだな」


 ミレアが褒めると、「そんなことないよ」とでも言いたげな顔で、笑顔を見せる。


 3人で話していると突如、広間の奥の扉が開かれる。誰もが扉の方を注視する中、男が入ってくる。男は広場の壇上へと上がる。

 男は全身を鎧でつつんだ大男で、腰には大剣を装備していた。


「──グレイブ・オーグスト…」


 ミレアの右にいた少年が、そう呟いた。


 グレイブ・オーグスト─リディア王国の騎士。かつて大国との戦争にて、先陣を切り壊滅させたという逸話もある。

 また、ミレアが騎士を目指すきっかけとなった人物でもある。

 この場にいる誰もがグレイブに視線を送り、彼の言葉を待つ。


「ようこそ諸君、私はリディア王国軍騎士、グレイブ・オーグストだ。これから行う試験について説明させていただく。」


 そう言うとグレイブ指を2本立てて話を続ける。


「君たちに受けてもらうのは2つ、1つ目は実技試験。試験兵と模擬戦をしてもらう。試合時間は3分、評価基準は勝ち負けではなく内容を見て審査させてもらう」


 グレイブの言葉に周囲の者達がザワザワとし始める。それもそうだ。試験とはいえ現役の兵士と戦うのだ。不安は尽きない。ミレアもその1人である。


「1対1か...」


「不安?ミレア」


 ルビーがミレアの漏らした声に反応する。ミレアはその問いに対し無言で頷く。


「そして2つ目は実践試験だ。実際に魔物と戦って貰う。まあ詳しいことは開始前に話すとしよう。皆の健闘を祈っている」


 そう言うとグレイブは壇上から降り、入ってきた扉から退出する。

 途端、肩の力が抜け体の力が抜けた。グレイブのいつの間にか放たれていた覇気から解き放たれた様だ。周囲を見渡すと膝から崩れ落ちる者、体が震えている者など様々な反応を見せている。


 ちらりとルビー達の方を見ると緊張から開放された顔をしていた。やはり彼女らもグレイブの覇気に多少は気圧されていた様だ。


「それでは会場へと向かいます。私の後に着いてきてください」


 グレイブの代わりに広間に入ってきた兵士が会場へと向かう。

 ミレア達は様々な感情を胸に広間を出るのだった。



 ミレア達は小さな闘技場がいくつかある場所に案内された。闘技場には兵士が2人ずつ立っている。恐らく受験者が戦う兵士と審判役なのだろう。


「ではこれより、実技試験を行います。順に名前を呼ぶので、呼ばれたら出てきてください。武器はその中から好きなものを選んでください。」


 そう言うと武器立てを指差す。木製の剣や槍などが立てかけられている。


「次、ルビー・テラス」


 実技試験は順調に進んでいき、ルビーの名前が呼ばれる。


「ルビーがんばれー!」


 ルカが手を振るとルビーは笑顔を見せ、舞台へと進んでいく。


 ルビーは武器立てから槍を手にすると、感触を確かめた後兵士と向き合った。


「それでは、始め!」


 開始の合図がかかった瞬間、ルビーは兵士との距離を詰める。そして、槍を兵士の腹部へ突き出す。


 だが、相手は現役の兵士だ。身体に当たる前に剣で突きを止め、弾いた。


「なかなかやるじゃないか。今日一の威力だったぞ」


「それはありがとうございます」


 兵士の褒め言葉にルビーは感謝を述べる。だが次の攻撃の準備は怠らない。


 そこからは、一進一退の攻防だった。決着はつかず3分の時が過ぎる。


「そこまで!」


 審判に制止され、2人はお互い構えを解いた。

 ルビーは兵士へお辞儀をすると、ミレアの所へ戻った。


「お疲れ様。凄かったぞ」


「ルビーさすがー!」


 ミレアとルカはそれぞれ労いの言葉を述べる。


「ありがとう2人とも」


 そう言うとルビーは笑顔を見せる。

 その時、甲高い笑い声が耳に入った。


「誰かと思えばルビーじゃない。なんであんたがここにいるのかしら」


 赤い髪の女がルビーに話しかけてきた。隣には男が2人立っている。


「あんたみたいな落ちこぼれがなんでこんな所にいるのと聞いているのよ」


 女は高圧的にルビーに話し続ける。ルビーは表情を少し曇らせていた。


「姉さん、私も騎士を目指してるから」


 ミレアはルビーの口から出た姉さんという言葉に少し驚いた表情をする。


「まああんたみたいなのはどうせ合格しないわよ。精々無様に落ちる事ね」


 そう言うと、他の受験者の波に消えていった。

 ミレアには驚きと少しの怒りが残るのだった。

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英雄騎士物語 @riri1-773

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