不可思議コンタクト

 最低限……。本当に最低限の支度を済ませた私は、一先ず依頼人さんをお姫様抱っこして山を下り始めます。

 この斜面、どことなく使山の斜面と似た感じがしてとても下りやすいですねぇ。


「しかしながら……依頼人さんは眠り姫ですね。キスでもすれば目を覚ますんでしょうか?」


 私は依頼人さんの顔を覗き込んでみます。

 スヤスヤと寝息を立てて呼吸をしているので、少なくとも命に別状はなさそうですが、それにしても少女みたいに眠りますねぇ。このまま起きなかったら悪戯いたずらでもしてみましょうかね!


 ……しかしながら本当に不思議な場所ですねここ。

生命の気配は一向に感じられず、枯れた木々には煤やほこり、地面の土はすっかり瘦せこけてもはや雑草すら生えていないですね。あいや、少しはあるみたいですが。

 なぜこのような環境の悪さで人が暮らし、生きていけるのか。まあこのような環境だったら治安もさぞかし終わっているんでしょうね~。


 もしかして私も性欲の対象として見られて襲われたり……?

 いや、依頼人さんが真っ先に襲われそうですね。なんですかこのけしからん身体!ちょっとその色気分けて……なんかこの人男のくせに柔らかな胸ありますね許せません〇します!絶対に〇してやりますよおおん!?


「依頼人さ~ん!起きないと観夢ちゃんが依頼人さんを(自主規制)しますよ~!いいんですか童貞より先に処女奪いますよ~!」

「んんっ……?」


 私が依頼人さんにありったけのキモさをぶつけると、依頼人さんは目を覚まし、寝ぼけた目を擦りながらこちらを見つめてきます。


「み、む?」

「はぁ~い。観夢ですよ~!」

「みむ、みむ、すき――いきてたんだね」


 なにやら私が生きていたことに安堵したのか、依頼人さんは顔をだらしなくとろけさせて微笑みます。それにしてもいきなり「好き」とは……。


「ん、ん゛っ。一人で歩けますか?」

「そう、だね。いちおうは。でもあんまりちからはいんない、かも」


 どうやら呂律すらまともに回っていないようですね。いやはや、一難去ってまた一難というやつでしょうか。


「そろそろ街らしきところに着くので、そのタイミングで下ろしますね」

「わかった」

「……ちょっと失礼しますよっ」


 そう言って私は依頼人さんのおでこに自分のおでこを重ねます。


「風邪、引いてますよね」

「これは、ちょっとしたくすりのふくしゃ、副作用。で、のうりょくのせいげんをかいほうするかわりに、しこうをにぶくするふくしゃ……副作用。があるんだ」


 舌っ足らずになってたり所々噛んでたり、ちょっと依頼人さんの事が不安になってきましたねぇ。


「だいじょうぶだ。このくすりはふくさ……ようこそつよいものの、ほぼかんかくだけでぼくのなかにあるすべてののうりょくがあつかえる。だからせんりょくには――」


 私は依頼人さんの言葉をこれ以上聞かぬふりをして山頂へと戻ります。


「み、みむ?か、かおがすこしこわ……」


 私は山頂に着いた後、依頼人さんを優しく下ろし、朽ちた神社の木材を搔き集め、小さな横穴を作ります。


「だいじょうぶだ、みむ。僕ならっ!?」


 私は依頼人さんを抱っこして横穴に入れ、こう言います。


「依頼人さんはここでじっとしていてください」

「なん、で……みむ?ぼくは――「トンッ」かっ……!?」


 依頼人さんに優しく手刀をかけて眠らせ、そのまま横にさせ、私は立ち上がります。


「さて、ここからは単独行動ですね」




――――――――――――――――――――




「迷いました」


 「単独行動ですね……(ドヤ)」と息巻いたはいいものの、この街広くありません?私が走りながら見て回っているのに一時間は経ってるんですよ!?

 う~む……そろそろ休憩でもしましょうかね~。例えばあんな隅っこみたいな所で――


「いやだぁ、せんしょーさまに会いたいぃ…」


 何かトラブル……いやしかし泣いている子を前にしてだまっていられるほど私の善性、いやここで見捨てたらARCのやつらに中指立てられませんね!いっちょ人助けと行きましょう!


「どうしたんですか?」

「……」


 ん~、典型的とも言える『見知らぬ人に警戒心を抱く』この感じ。でもここで引き下がったら不審者。見た感じこれは――


「あちゃぁー……迷子、ですかね……」

「あの……お、お姉さん。浜南神社、の大鳥居分かる……?連れてって……欲しい、です」


 その瞬間、何かピリッと脳内に干渉されるような感覚がします。

 『連れていけ。』

 脳内にその子供にしてあげなければならないと、そう脳が誤解する感覚が頭をぎりますが、幸いにもその感覚はすぐに振り払えました。

 たま~に、ARCの刺客にそういう人いるんですよね~。洗脳してくる人。多分この子供は「言霊」とかそう言った類いの能力の持ち主なんでしょうか。推定異世界でも能力者はいるもんなんですねぇ。


「そこで待ち合わせしてるんですか?」

「……うん。尖晶せんしょう様と」


 ふむ。保護者はせんしょう……聞いただけじゃ漢字が分からない系の名前……もしくは名字の人ですね。

 この子、今にも泣きそうな顔してますね。せんしょうって人、よっぽどこの子に好かれているんですね~!なんだかその人が血眼になって探している様が見えるかもしれません。

 まあそれはそうですが浜南神社、どこですかねそんなところ。一応神社はここに来る最中に一度見かけましたが、あれですかねぇ。


「わかりましたよ〜。だから泣かないでくださいね〜」

「ありがとう、お姉さん……」


 私は一応、はぐれないように手をつないで進んでいきます。

 心当たりがある所に着く前に、一先ず神社の特徴とか聞いておきますかね。

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少女は呪いを背負い、銃を持つ。研究所が生み出す負の連鎖を断ち切る為に。 さんばん煎じ @WGS所属 @sanban_senzi

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