第11話 冒険者になろう
ゴトゴトと馬車に揺られる。
うーん、ちょっと気持ち悪いな。
他に3人の乗客がいる乗合馬車を利用して、俺は王都の南方面へと向かっている。
馬車、といえばシシ村から出発した時も酔って吐きそうになった覚えがあるなぁ。
王都の道は石畳で整備されてるからマシだが、それでも前世で感じたことがない程度には振動が大きい。
それに昼飯を食べすぎてしまったから、腹一杯と酔いのダブルパンチで気持ち悪い。
ヤベェ。
そんな事を考えながらこれ以上酔わないように窓の外を見る。外では大勢の人が歩いており、その大半が装備を着込み武器を携帯している。
そろそろ冒険者ギルド本部が近そうだな。
冒険者。それは、この世界に点在する<
その冒険者達を管理しているのが冒険者ギルドであり、冒険者の登録や依頼の斡旋、素材の売買など様々な役割を担っている。
王都には冒険者ギルドが本部を含めて4つ、東西南北それぞれの方向にある……のだが、北の支部で聞いたところ、冒険者登録のためには試験や講習を受ける必要があるようだ。
さっさと終わらせたいなら南の本部に行くのが一番、とのことらしい。
そういうわけで、昼食を食べた後に馬車に乗り、北から南までグルッと街を回ってきたところだ。やっと停車駅に着く。
いや〜長かったな〜。
南門近くの大通りにある駅で降り、体をうーんと伸ばす。視線で周囲を探ると通りのすぐそばに大きな建物を発見した。
The冒険者ともいうべき格好の人が出入りする様子を見るに恐らくあれが冒険者ギルドの本部だろう。
冒険者と言えば乱暴者、的なイメージがあるんだよなぁ。まあ勝手な偏見かもしれんが。
とは言え面倒事を起こすのもアレだからなるべく慎重にいくか。まずは日本人として磨きあげた歩行者回避術を見せてやろう。
そう意気込み、人の間をするりと抜けて建物の中へと入ると、そこは多くの人で賑わっていた。
円形テーブルの周りに集まり談笑する人達に、沢山の紙が貼られたボードの前で唸っている人達。奥では長机で仕切られ、受付嬢が冒険者の相手をしていた。
それら様子をキョロキョロと観察しながら、受付の方に向かっていく。さてどの列に並ぼうか。
大体どの列も3、4人待っている。受付嬢は全員美人揃い……ちょっと行きづらいなぁ、何か話しかけ辛いし。
あっ、あの列が早そうだな。もう余計なこと考えずにさっさと並ぶか。
そう考えながら止まっていた足を動かし進めると、不意に後ろから近づく気配がした。そして背中に衝撃が走り前につんのめる。
うおっっとと。いっ、一体何だ?
体を捻って後ろを見上げると、一人の強面な男がこちらを睨み見下ろしていた。
「あ゛あ゛? 何だテメェ、このオレ様にぶつかっといて謝罪もねぇたぁ舐めてんのかコラ」
男は顔を真っ赤に歪ませながら、酷い言いがかりをつけてくる。
な、何だ……コイツは。
冒険者に絡まれるというテンプレが発生……とはちょっと違うか? でもまあ、同じ厄介ごとには変わりない。
「お前がぶつかってきたんだろうがクソ野郎!」と言い返したいところだが、正直
適当に謝ってこの場を納めよう。
「すみません。俺の不注意でした」
そう言って頭を下げようとした時、男に首元を掴まれ、顔の近くまで寄せられる。
ドアップで映し出される顔面と
「ふざけんな! 舐めてんだろッ!」
男に叩きつけられ、尻餅をつく。静まり返る周囲。
……あ〜これ、もう何言っても無駄だろうな。戦るしかねえか。
この身に感じる強い敵意と不快感が、俺のスイッチを入れ――
「ねぇ、あんまり暴れるのは良くないよ?」
……えっ?
いつの間にか男の横には一人の少女が立っていた。
瞳に
「何だァ? テメェ」
「わたしはイナハ。よろしくね。それで、あなたの名前は?」
「チッ、そう言う事を聞いてんじゃねえんだよッ!」
男が掴みかかろうと腕を伸ばした瞬間、イナハの姿が消えるようにブレて、呆然としていた俺の前に移動して来た。
そして優しく手を引っ張られて立ち上がる。
「うん、ケガは無さそうだね。良かった」
「……いや、まあ、俺は大丈夫だけど」
イナハの背後では、男が血管がブチ切れそうなほどの怒りの表情で、腰に下げた武器に手をかけている。
おいおい、アイツこんな所で武器を抜く気かよ。正気か?
つーか、さっきの
「わたしに任せておいて」
そう言って、にひっと笑うイナハ。
クルッと回ってふわりと流れるポニーテール。その動きに視線がいくと同時に髪が荒ぶり――男は白目を剥きながら膝から崩れ落ちた。
……動きが見えなかった。この感じ、父さんとの訓練を思い出す程の圧倒的な力。
恐らくあまり歳は変わらないだろうに、ここまで差があるのか。
振り向いてこちらに笑いかけてくるイナハを見て、一滴の冷や汗が流れるのを感じた。
「じゃあ後はよろしくね」
本来なら冒険者の暴力や犯罪行為を止めるのは冒険者ギルドの役割だ。ギルドの職員と協力しながら男を縛り上げ、残りの処置は任せることとなった。
「よし、それじゃあ行こっか」
そしてイナハと共に受付に並ぶ。最近変な人が増えてるんだよね〜と世間話をしながら……なんか自然と一緒にいる流れになったな。
自然すぎてツッコむ隙間も無かった。
「ねぇ、名前、聞いてもいい? わたしのことはイナハって呼んでね」
名前か……普通に言ってもいいんだが、貴族と冒険者の仲って悪いからなぁ。隠しておいた方が良いかもしれん。
「……そう……だな。俺のことはクロウと呼んでくれ」
「わかった。それでクロウは何しにここに来たの? 見たことない気がするし、ここには初めて来たのかな?」
「ああ。冒険者登録をしようと思ってな」
「へぇ、冒険者登録。うーん、何となくクロウは強くなりそうな気がするし、頑張って欲しいな〜」
ふっ、まあ元勇者だからな。修羅場を潜ってる分、アドバンテージはある。
イナハは勘が鋭いなぁ……本当に鋭いのか? 俺今レベル1だしステータスもクソ低いんだけど。前世のオーラでも出てたか?
なんて事を考えながらイナハと話していると俺の番が来た。
「次の方どうぞ。……あっ先程の。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ。イナハに助けてもらったんで。それより今日は冒険者登録をしたいんですが」
謝罪をやめさせてさっさと登録しようとする。
ああ、時間がかかるから別室で、と。そしてイナハは当然のように付いてくるんだな。
移動した後は必要事項を紙に書いていく。名前や出身地といった必須の項目だけでなく自分の実績やレベル、ステータス、スキルなど任意の項目もある。
名前はクロウで良いだろ。そんで――……うーん、任意のところはどうするか。
……正直にレベルだけ書いておくか。もちろん真偽は分からないからあくまで参考程度って所だろうが。
書き終わった用紙を渡す。
「それではこの魔石に魔力を込めてください」
そう言って手渡されたのは透明な小粒の石。魔石と言えば黒色や青色など様々だが、中の魔力を全て消費した時、透明になるのも特徴だ。
透明な魔石に魔力を込めると、黒い光が現れすぐに消える。この光が、魔石に(俺の)魔力が入った事を示す合図だ。
子供の頃にもやった記憶があるなぁ。確か、身分証明書を作るのに必要になった筈。
人によって魔力が違うから、魔力で個人を判別出来るんだっけ。
まあ指紋的なものって事だな。これのおかげで犯罪者の出入りが防げた事例もあるらしい。
魔石を返すと、次は講習と戦闘試験があると聞かされた。準備済みだからどちらが先でもOKと。そうだな〜なら「戦闘試験をやろうよ」。
声の方を見るとイナハが
「わたしが試験官をやってあげるよ」
元異世界勇者によるRPGモブ転生戦記 ヒカリ @hikari1023214
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