灰色の箱

Ev.ki

油断禁物

 横たわっている男は目を覚ました。額には汗がにじみ出て、息が大きく上がっている。

 

 目を開いた男の視界には、約3メートルほど上に、灰色のコンクリートの天井があった。男は寝たまま、焦ったように勢いよく首を振り、左右を確認した。


 右には一メートルほど向こうに、天井と同じコンクリートの壁があり、そこには真ん中に「1」と書かれた白いドアがつけてあった。左も同じように壁とドアがあり、ドアには「2」と書かれてある。


 男は頭を少し上げ、つま先側にある壁を見た。


 そこにも同じように壁があり、「3」と書かれた扉がある。


 それの向かい側は、ドアのないただの壁がある。


 男が上半身を起こそうと手を体の横につき力を入れた瞬間、「2」のドアの向こうから男性の絶叫が聞こえた。


「やめろ動くな!」


 その声に「やめろ」と「動くな」の間がなかったことから、随分と「声の男」が、寝ている男に動いてほしくないことが分かる。


「どこなんだここ!?」


 男は震えた声でそう言いながら、声を無視して上半身を起こした。


「お願いやめて動かないで……」


 「1」のドアの向こうから今にも泣きだしそうな女性の声が聞こえた。


 そして数秒後、「1」のドアの向こうから「ダン!!」と何かとても重いものが落下するような音がした。


 男が「1」のドアの方を向くと、そのドアの下から、赤黒い液体が、細かなコンクリート片とともに男の部屋に流れてきていた。


「なんなんだこれ……」


 男は震えた声で呟いた。


「なんで動いた!」


 再び「2」のドアの向こうから男の叫び声が聞こえた。


「だって怖いし……」


 男は細い声でドアに向けて喋った。


「自分勝手だ!」


 「2」のドアにいる男は、唾を飛ばしながらそう叫んだ。


 その言葉に、男はイラついた。どこかもわからない場所で、目が覚めた瞬間動くなと指示するそっちが自分勝手だ。


「どこか教えろ!」


 男も唾を飛ばしながらやけになって聞いた。


「知らない!でも動くな身勝手野郎!」


 「2」の男はそう叫んだ瞬間、言い過ぎたと自分で思った。しかし、そう思った時にはもう遅かった。


「なんだとてめぇ!」


 男は激高し、勢いよく立ち上がった。


 その瞬間、「2」のドアの部屋の天井が、音もなく落ちてきて地面とぶつかり、轟音とともに砕け散った。


 男がいる部屋に、二人目の血が流れてきた。


 男がそれを見て唖然としていると、「3」のドアが「カチャン」と音を立てて、男がいる部屋の方へ開いた。


 男がそちらを見ると、中に細身で高身長の男性がいた。その男性の向こうには、何も書かれていないドアがあった。


 男性は男を見ながら後ろのドアを指さし言った。


「ここ、出口です」


 男は焦りと笑みを混ぜた、しわだらけの表情で男性に聞いた。


「使っていいか?」


 男性は笑みを張り付けて答えた。


「かまいませんよ」


 男は焦りが消え、笑顔だけになった。


「マジ感謝するぜ!」


 男はそう言って、「3」のドアをくぐろうとした。


 右足が「3」の部屋へ踏み入れた瞬間、男性の目の前にコンクリートの塊が落ちた。


 男性がいる部屋に、コンクリートの破片と、膝から下の右足が入ってきた。


「7文字ですね」


 男性が落ちている足を見ながらそういうと、男性の後ろにあるドアが、モーターの「ブオーン」という音を立てながら自動で開いた。


 ドアの向こうには、どこかの路地裏が続いていた。


「楽しいですね。また呼んでください」


 男性は外へ向けて歩みを進めた。正直男性にもここが何かわからない。何がしたいのか、何を伝えたいのか……。


 そう考えながらドアの前まで来ると、突然、ドアが勢いよく閉まった。


「……なるほど、最後まで気を抜くなと」


 男性はコンクリートの塊に潰された。

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灰色の箱 Ev.ki @maguro0913

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