17話 電光
身体が痺れて首を動かすのがやっとだ。
「お前、魔術師…だな?持っているだろ、『CELL』を全てさしだせ。」
目の前の男は青い色のローブを羽織っていて、顔はよく見えない。
「断る…といったらどうするんだ?」
「…残念だが、それならここで終わりだ、お前は。しかし、私は無駄な殺生は好かない。大人しく『CELL』をさしだすなら見逃してやってもいい。」
電流によって痺れていた身体が徐々に自由を取り戻していく、逃がしてやってもいいと言ったようにこいつに殺す気はまだないようだ。
少し動かせるようになった体を動かし、片膝を砂の上につくと、砂が肌に張り付くのを感じる。
「それ以上動くのは許さない…お前はそこに座っていろ。」
そういうと男はその細い指先を僕の方に向ける、これ以上動くと今度は本気で殺すということなのだろう。
甘い、あまりにも甘い 地面を見つめながら男なバレないように笑みを浮かべる。
「わかった、『CELL』を全てさしだそう。しかし、僕はどうやって差し出せばいい?」
先生も言っていたが『CELL』は所有者を殺さなければ得ることは出来ない。
「簡単だ、所有者間では相手に渡すという意志を持ってさえいれば『CELL』が同化した部分から取り出せる。出したらこっちまで投げろ。」
渡すという意思か、渡したくはないが仕方がなかった。
『渡す』そう思いながら左腕を掴むと、『CELL』がひとつでてきた。
続けて2つ目、3つ目…全部で10個出す。
「それで全部か?」
「あぁそうだ…全部で10個。」
嘘だがな。
「まぁいい、嘘だった時はすぐにわかる。嘘だとわかった瞬間すぐに殺してやる。」
甘いな。
「いくぞ…」
そう言いながら奴の方に今まで集めた『CELL』をゆっくり投げる。
1つ、2つ…ちょうど8つ目を渡す時。
「あっ…すまない。」
僕は奴がいる場所から僕の方へ2mほど離れたところに『CELL』を投げてしまった。
「力加減を間違えた…」
「やれやれ…気をつけてくれ。取りに行くが、妙なことは考えるんじゃないぞ。とりあえず、上半身の服を脱げ。」
その言葉に逆らわず、奴の望み通りにの上半身の服を脱ぐ、男は僕が何も隠し持ってないのを確認すると満足そうにその『CELL』が落ちたとこまで行き、しゃがんで取ろうとした。当然、奴の指はずっと僕を指していたが、しゃがもうとした瞬間だけ指が少しだけ僕の方向からずれた。
その一瞬が命取りだ。
次の瞬間、僕は『ルーム』によって右手からリボルバー式のピストルを取り出し、やつに向けて発砲した。
奴と僕の距離は5m、ピストルを両手で握っていなかったため弾道は大きくそれ男には命中しない。
だが、それでいい。
発砲と同時に脚の筋力を魔術により強化し一気に2歩で間合いを詰めた…… その間、約0.5秒。
奴も発砲音に驚き即座に体勢を整えようとするが、しゃがんでいる途中の姿勢から急に体勢を整えよとするのは困難。
しかし、それでも指先だけは僕の方を向けさっきの電気の魔術を発動させようとするが、その指は永遠に魔術を発動させることは無い。
なぜなら、1歩踏み込んだ時点で僕は左手からナイフをだし。その刃を思いっきり奴のたてた人差し指に振りかざす。
「くっ…」
残念なことに刃は指を切断するにはいたらず、指の骨の部分を少し切りつけただけだったが…それでいい…奴をひるませることができれば…
「この…クソガキャ、ッウ…」
目の前の男が口を開けて何かをいおうとした瞬間 口にピストルのバレルを突っ込む。
リボルバー式のピストル、残り装填数は5…そしてこの位置ではもう外すことはない…目の前の男のローブがはだけ、中から30代前半ぐらいの髭をはやした顔が出てくる。その男の額からは汗がふきこぼれ顔を伝っていき、その様子をピストルのバレルと同じくらい冷たい目で僕は見つめる。
「わはった、はなひをひよ「パァンッ」
硝煙の香りを嗅ぐ、ピストルの反動を感じる、辺り
一面に響く乾いた発砲の音を聞く、そして何より、目の前の肉から赤い液体が流れていくのを見る。
バレルを口の中からだし、さらに肉塊に3度穴を開ける。
はじめて人を殺したが、罪悪感などは少しもわかない。ただ目の前のこの肉が生き物からただの物になった、そう思うだけだった。
「甘かったな、名も知らない魔術師…お前が最初に僕を殺しておけば立場は逆だった…」
僕は最初から、『CELL』を渡すつもりはなく、そして男を生かすつもりはなかった。
「はっ、はァ はァ はァァ…」
一気に汗が吹き出て膝をはじめ全身の力が抜け、地面に倒れ込む。
死と生の境界の上に立ち、ひとつ間違えれば死はこっち、危ない橋を渡ったのだ…疲れが全身を襲う。
「少しだけ、寝よう。少しだけ…とてもつか…れ…たっ…」
そのまま、地面の上で深い眠りへと僕は落ちていった。
魔法探索 音宮日弦 @HYUS
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