第15話 入壁

「さて、色々聞こうか」


 そう言って俺を目の前のテーブルを挟んだ、安い作りの椅子に座るように促してから自分はも同じ簡素な椅子に座る。


「にゃぁ!」


 トリは俺の肩からテーブルに居りて真ん中迄歩いて行き、横にずれて羽を大きく広げてから、今一度大きく鳴いて羽を交差させる。

 審判か何かのつもりなのかなんなのか。


『……ネコさんなにを勝負させようとしてるんでしょうか……』


「……」

「……」


 指揮官の男は訝しげな顔でその様子を暫く見て、小さく溜息をついて俺に向き直る。

 まぁそういう顔になるよな。

 俺も同じ顔になってるよ。


「まずは自己紹介でもしとこうか、俺の名前はルベルト、ただの兵士のルベルトだ。ここ西門の門番長をやってる」


 指揮官の男はそう名乗って、軽い咳と共に表情を正してから俺の目を見て顎をしゃくる。

 自己紹介しろって事だ。


「え?ああ自分はグラン、行商人です。」


「……で?」


 ルベルトは右こめかみを指で揉みながら不快そうな表情を浮かべる。

 続きは?って事だろうが……困った事に俺の姿で町に入る予定では無かったので何も準備して居なかったから、何も言えなくて困ってしまう。


「ええと、この街は販路開拓の為に初めてでして……」

「はぁ……一々言わんと分からんか?、どこから来た?商人と言うなら荷物はどうした?なぜ不帰かえらずの森から出て来たんだ?」


 だよなぁ、誤魔化せられんよなぁ、どうするか……


「あの森がそういう不穏な名前で呼ばれてるとは知りませんでした」


 冷や汗を流してる風におでこを拭く動作を交えながら続ける。


「道理であんな化け物に襲われたんですね、知ってたら入りませんでしたよ」


 森の呼び名を聞いて、恐怖を抱いた風を装いながら、森に入った言い訳を述べる。


「森に入った理由は、商売道具が無い事と関係が有りまして……」

「続けろ」


 不安と自信の無さを演出しつつ上目使いにルベルトを見上げて様子を伺うような表情を浮かべる。


 「はい、この街に……と言うかこの辺りの街を探して馬車を走らせて来たのですが、先ほどの大鬼オーガとは比べる迄も無いですが、焦ってて正確には分りませんが恐らく四、五匹だったと思うのですが、小鬼ゴブリンの小集団に襲われましてね、なんとか追い払った迄は良かったのですが馬車は車軸が完全に折れて動かすのは不可能になり、馬も混乱時に縄が切れてどこぞに逃げてしまって……」

「ふむ、そいつは災難だったな……それで?」


 上目使いの表情は変えずにルベルトに続きを話して良いか伺うと、ルベルトは表情を変えずに話を続けるように言う。


「それで、積み荷も今回は瓶物ばかりでしたので全て割れてしまって……おかげで全財産を失ったので、どうにかしなければと昔し薬草類の採取で生計を立ててた事を思い出して目の前の森の中へ採取で入った次第でして……」

「はぁ……全部瓶物って素人か?、何の瓶だったんだ?」


 更に疑いを深めた表情で追及して来る。


「傷薬と強壮薬と……お酒を少々……」


溜息を落とし哀れみの目線で見られて、苦笑いを返して置く。


「知ってるか知らんがお酒の持ち込みは違法だぞ?割れて良かったな?、それで結局何処から来たんだ?」


 皮肉を込めた笑いを浮かべて、あらためて避けたい質問を続けられて、そりゃ誤魔化せられるわけないないわなぁと俺も溜息を付く。


「森沿いに北の方からです……」

『なぁレスティ、北の方に有る街か村か名前分からないか?』

『ごめんなさい、私もさっきから考えてましたけど、どうにもここより北の記憶が無くて……。ただ、この街が確かこの国の最北の街だったと思います。』

『まじか……、なんとか誤魔化してみるよ』


 さて、どうするか。


「北の方ねぇ……北のなんて言う所だ?」


 聞かない訳ないよなぁ。

 誤魔化すって言っても北になにが有るかも知らないし困った。


「えーと、まぁなんてない田舎ですよ」

「なんだそれ……馬鹿にしてるのか?」


 睨んでた目がさらに険しくして俺を見上げるように机に身を乗り出して来た。


「いやぁ本当に名も無い田舎なんですよ」

「まぁ小さい村なら名前もなあ所は有るが。まぁいいこっちの板に手を置け」


 そういって後ろの棚から宝石のような物が嵌まった板を俺の目の前に取り出す。

 魔道具!拙いな……俺の手は本物じゃないし、レスティの手を載せるのは追われてた事を考えると絶対に出来ない。


「それは何ですか?」


 ちょっと表情が引き攣ってしまっていないか心配だが、何はともあれ聞いてみない事には判断できない。もし拙いようなら最悪逃げるしかないが……


「ん?知らんのか?、では一般的な犯罪歴を調べる魔道具だよ、では無かったのか?」

「へ?いや、国……?、良く分からないですが地元の村ではそんなもの無かったですね」


 軽く探りを入れるられたが、うまくかわせられただろうか……


「そうか……しかし、そんな田舎で瓶物の商品をよく準備できたな」


 まいったな、どう切り返すか……

『状況悪くなってないですか?』

 うん言わないでくれ、自分でもそう思ってる。

 レスティに聞こえない様に心の中で呟いて、切り返す言葉をそれこそ壺を引っ繰り返す気持ちで探す。


「ええ……かっこつけて言いました……、実際は素焼きの壺です。村で自作した小さい壺とお酒を作ってましたので、その作った酒を……少々」

「少々っても馬車に乗せるくらいは運んでたのだろ?」

「う……すみません、それも見栄を張りました……馬の背に幾らか積んでただけです。その馬事どこかに行っちゃいましたが……」


 無理があるよなぁ……でも本当の事は言えないから嘘を押し通すしかない。


「まぁとにかく手を置け。こいつは過去の指名手配や各街や村から訴えられて罪を国として認めた者の魔力波が記録されているから、記録が有れば反応する。そういう魔道具だ。さっさとしろ」


 魔力波ねぇ……そんなのが分かるんだ。

 何が凄いって彼の話しの感じだと大概の街に設置されていると思われるのが凄い。

 どうやって記録の共有とかしてるのか?とか気になるが、ともかくやはりレスティに触らせるのは危険だ。

 俺の魔力がどのような波長を出すかわからんがそれで試すしかない。

 問題は俺自身はレスティの魔法で作られた筈だからレスティと同じ波長じゃ無いかと言う所が心配だが。


「わかりました」


 そう言って俺は、緊張しながら右手を乗せる。俺に心臓が有ったら鼓動が煩かったかもしれない。

 まぁ代わりにレスティの鼓動が鳴って居るけどね。


「……ふむ、犯罪歴の記録は無いな」


 暫くの間、ルベルトはその板の宝石部分を見ていたが、やがて何の変化も無かったので、一息ついてそう言った。


「取り敢えず、正式に入壁は認めよう。入壁税だが商人の場合は銅貨5枚に持ち込む商品の1割をここで収めてもらう決まりになって居るが、持っているか?」


 やべぇ!そりゃ街に入る時に税金かかるわな。

 銅貨1枚も持ってないぞ!


『グラン、多分だけど薬草を見せてその売価で払いますって言えば何とかなると思うこういう危険な森の側の最北の街なので、魔物に襲われるなどで所持金無しで転がり込む事は有る筈だから許可してくれると思う』

『ほう、それは助かる。その辺は思い出したのか?』

『え?あそうですね、多分そうだと。それが当たり前な事と思ったので口にしましたが、なんとなくですが間違いないと思います』

『そうか、分かった有難う。その方法で相談してみよう』


 俺は背中のバック(風に見えるようにしている魔力体)から取り出すように見えるよう、注意しながら集めた薬草のを机の上に置いて言う。


「お金は全部馬の背の袋に入れて居たので……ですが森で集めたこの薬草を売れれば、そのお金で後から払う事は出来ませんか?」


「……仕方ない、じゃあこいつを肌身離さずに持っておけ」


 そう言ってルベルトは一本の組紐を渡してきた。


「そいつは、この街の中に居る限りその場所が分かる魔道具だ、それと支払いは明日夕方迄にここに持ってこい。その薬草の税金も売れた額の一割みきちんと払えよ?」


「もちろんです!薬草も売る前に現物で一割置いて行くとかしなくても良いんですか?」


「ああ、本来は商品の一割を直接置いて行かせるが、どうせ明日夕方までに入壁料を持ってこないダメだろ?薬草なんてここに置いて行かれても困るからそっちの方が良い」


 ルベルトはめんどくさそうにそう言うと手で追い払うような仕草をする。


「有難うございます!、それで申し訳ないんですが薬草を買ってくれそうな所を教えて頂けないでしょうか?」


 はぁっと大きい溜息を付きながらルベルトは、一番手近な商会を説明する。


「どこに売ったら良いかは俺は知らんが、この西門に一番近い商会が正面の大通りを真っすぐ進んで行けば有る。名前はカランラック商会、看板は麦と鎌を重ねた屋号を掲げてる、分からんかったらその辺歩いてる奴にでも聞け」


 いよいよ本気でめんどくさく成ったのか、吐き捨てるように本気で出ていけと手を大きく前後に振るった。



「隊長、あのまま街に入れて良かったのですか?」


 グラン達が出て行った部屋の奥から一人の若い兵が出てきて、ルベルトにそう切り出した。


「犯罪歴は確認出来なかったからな、追い出す理由が無い」

「いや、しかし言ってる事は無茶苦茶でしたよ?商人って言いながら田舎の村から出てきたばかりなような事を言ってるかと思えば、森から出てきた理由や何も持ってない原因も二転三転してましたし、なによりここより北は我が国の街も村も無い筈です」


 苦虫を噛みしめたような顔でルベルトは振り返りながら言う。


「お前は門番に就いてまだ日が浅かったな……、あいつの事は現状分からんが北の村とは特別な理由で交易は領主承認済だ」

「え?いえ、ですから北には街も村も無いですよね?」

「有るんだよ、深く考えるなって事だ。長生きしたければな」

「ええ?それってどう言う、」

「もう行け!それと今言った事は誰にも言うなよ、ただ北の村とは交易してる。ただそれだけだ」


 ルベルトはそれ以上聞くなと若い兵士の言葉を遮るように言って、部屋から追い出した。


「ったく、真面目な奴程厄介だよ。それに北の村ってんなら西門に来ないで北門から入れって、事情が本当なら仕方ないが北門程この事を認知してる兵士を配置してねぇっての」


 そうぶつぶつと言いながら、グランと名乗った男に関する報告書を一応、街の中央に報告しなければと、実にめんどくさいなと思いながらペンを走らせた。



――――――――――

こんばんわ猫電話ねこてるです!

なんとか想定していた1章を書き終わりました。

2章が全然出来て無いしPC壊れるし、なので閑話を2個位挟んで、暫く書き上げる時間お休み致します。

_(._.)_


◇次回 閑話一 愚かなる王子

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