第14話 魔物

「はぁはぁはぁ」


 寝床から止まる事無く半日程町へ向かって進んだ所で流石限界なのか、レスティの呼吸が荒くなってきていた。


『一旦ここいらで休もう』


 グランはそう言ってその場の木に背中を預けるようにレスティを促す。


「大丈夫、はぁはぁ、でも有難う」


 大丈夫とは言ったもののレスティも限界だったのかそのまま落ちるように腰を落としてしまう。

 グランも慌てて魔力体をクッション代わりに受け止めて、優しく受け止める。


「にゃぁ」


 トリは、疲れた素振りも見せずに近くの枝にとまって呑気な鳴き声を上げた。


「グラン、どれくらい進めました?」


 すーっと大きく息を吸って、呼吸を落ち着けてからレスティはグランに問いかける。


『うーん、多分5分の1も進んでないと思うけど……、ちょっと見積甘かったかもしれないな』


 取り敢えず少し休もう。

 そう言って水に僅かの蜂蜜を溶いた物を口に含ませてやる。


「ん!……ふぁぁ」


 レスティは急な甘味と水分補給に思わず蕩けたような顔をしてふやけた声を出してしまって慌てて表情を引き締めてお礼を言う。


「ありがとうグラン!生き返ったわ!」

『しかし、森の外輪に行く方が地面がデコボコしてて歩きにくいな』

「確かにふしぎですよね、寝床にしてた辺りの方がまだ歩きやすい地面でした」


 本当に不思議な話だ、大抵森は奥に行く程木の根の張り出し等が多くなって歩き辛い物だと思ってた。

 あの辺りだけが特別だったのだろうか……


『ともかく、少し休んだらまた進もうと思うけど、今日は早めに寝床を決めて休んだ方が良いかもしれないな。日が暮れてからだと休める場所がすぐ見つかるかわからんし』

「そうですね」


 地形の問題もあるが、町にでてからの事も考えて俺の補助なしで問題なく歩けるようにと、右半身はだけで、左半身も補助無しで完全に自力で歩いた疲労が大きいようだ。、

 それなりに練習はしていたが、ついつい補助してしまって居たのが裏目に出てしまって、本当に申し訳なく感じて。


 俺はレスティを休ませてる間に、木の上に向かって魔力体をのばす。

 木の高さより上から確認すると、想像通り5分の1くらいのようだ。


「グラン、どうでした?」


 疲れ切って体力を回復意外に気をまわせていないと思ってたが、俺が木を登ってる事には気が付いて居たみたいだ。


『ああ、やっはり5分の1程度のようだ』

「そう……ごめんなさい……」

『大丈夫だ気にするな、まだ想定内だ』


 悔しそう二謝るレスティに軽く励ますと、くすりと苦笑いを浮かべて、ありがとうとお礼を言うレスティ。

 まぁさっきって言ってしまったからなぁ……説得力は無いか。

 でも、どうとでもなるとは思ってる……そもそもこの森で何日も過ごして来た訳だから。

 違う事と言ったらこれまでのような安全確保した寝床が無い事と、川の側から離れてる事で水分確保が難しい事か。

 まぁそこはそれ、水分なら俺が木や植物から分離吸い出せばいくらでも準備出来るから問題無い。

 食料も適当にそのあたりの植物などを取って安全かは俺が確認すれば大丈夫だろう……味の保証はできないが。

 そういう意味で無理する意味が無いし無理して体調を崩される方が困る。


『無理そうなら今日はここで休んでも大丈夫だぞ?』

「いえ、もう少し休んだら進みましょう」

『無理はするなよ?』

「はい」


 元気の無い返事で心配になる。

 最悪は無理やり休ませるか、俺が運ぶかする必要があり……?!


「グルルルルル」


 目の前10メートル程先の木の陰から大きな影が姿を現した。

 しまった!つい移動に集中して周囲の安全を確認する事を忘れてた!移動時の方がより危険なのに何故警戒を忘れてた……俺もこの状況に疲れていたのか?いや今はそれより、この敵をどうするかだ。


「……!」


 レスティは驚きすぎてなのか息を飲んで声もだせないようで手で口を押えて固まってしまっている。


『大丈夫だ、俺に任せろ!』


 そう言って魔力体を素早く伸ばして、目の前の存在を縛ろうとした。

 しかし、そいつは何事も無いように俺の縛りを無視して、こちらへ一歩一歩と近づいてくる。


『ちょ!止まれよ』


 力を入れて縛りを強くするが、どんなに力を入れても効果が無い様に物ともしないでそつは歩いてくる。

 全身の姿が見えてその姿を確認すると、そいつは熊に似た風貌で、その頭頂部に30センチ程の角が生えており、その手の爪も10センチを超えた凶悪な見た目をしている。


「グランドオーガ……」


 その姿を見たレスティはビクリとしてそう呟いた。


『知ってるのか?』

「え?あ、そうみたいです……多分凄く力が強くてある程度の知性も有るって、完全武装の兵士が数名掛かりでなんとか倒せると、そう記憶しています。」


 まじか!と思った瞬間縛っていた俺の魔力体が鬱陶しいと思ったのか思いっきり力を入れて両手を開き引きちぎられた。


『やば!んだよ!』


 慌てて引き千切られて四散する魔力体に別の魔力体を伸ばして全て回収する。


『レスティ!あいつの足は速いのか?』

「え?あ、確かそこそこ早かった?と思います」

『木は登るような奴か?』

「いえ、でも多分木を押し倒す位の力は有ったと思います」


 っち、拙いな!仕方ない!


『わるい!が走るぞ!』

「!」


 レスティの返事を待たずにレスティの全身を包み込む形を変える。

 もしも俺が人間の姿だったら?と練習していた姿を取った。


「グウァァァァァァ!」


 瞬間、グランドオーガにとって絶対の間合いに入ったのだろう、凶悪なその爪を振り上げて飛び掛かってきた。


「あぶね!」


 ギリギリに後ろに飛んでかわし、上の太めの枝に飛び掴む。

 因みに声を出してるのは俺だ。


「わるいな!相手してやるのはまた今度だ」


 枝にぶら下った状態で身体を大きく後ろに振り込み、その反動を利用してグランドオーガの上を飛び越える。

 あとは後ろを振り向く事無く、凸凹した荒地を飛び跳ねるように走る。

 まぁ俺には後ろも見えるから振り向く必要無いだけだが。


「ッチ!マジで足早いなあいつ」

『だ、大丈夫ですか!』


 これまでとは逆にレスティが俺の中で思考を送ってくる。


「大丈夫!とは言い難いな……地形無視して走れる俺の速度について来てやがる」

『えええええ!』


 どうする?このまま走れば追いつかれる事は無さそうだが……平地に出たらどうなるか。


「とりあえず町に向かって走る!」

『町までって!大丈夫なんですか?』

「ああ、俺が走ればそんなに遠く無い」

『えええええ……』


 最後のレスティの驚きはどっちかと言うと落ち込むような雰囲気があったが今は無視しよう。


「森をでる!」


 目の前に木々が途切れて明るくなっている景色が見えたので、あそこから先は平原の筈だ。

 後ろにはまだグランドオーガは追って来ている。


「!」


 地形的にはある程度上から見て分かっていたが、この位置は拙いと思った。

 明らかに町を囲む城壁から見通せるのだ。

 人影は……っち最悪だこっちを見てる。


「転がるぞ!それと速度を落とす!」

『な、なぜ!』


 レスティの質問に答える余裕は無い、早すぎる速度を転がる事で走ってるせいでは無いように誤魔化して、立ち上がったらの速度で走って町を目指す。


「町の方からこっちを見てる、さっきの速度で走ってたら異常だろ!」

『!』


 俺の言葉に町の方を見たレスティも息を飲んだ。

 後は必至に町へ向かって走るしかない、運が良ければ町から助けが出てくれるかもしれないが……距離が有り過ぎる。

 助けが出てくれても、途てもでは無いがグランドオーガに追い付かれる前に助けが入るのは無理があるか……最悪、どう思われようとも本気で走るしかないが……


『一瞬だけ後ろを見て!』

「え?何?!」

『グランドオーガの足を一瞬でも止めます!』

「できるのか?!」

『後ろを見たら左手は私に返してください!』

「……わかった」


 そういうと後ろを振り向き左手を包む魔力体の力を抜く。


『燃えて!』


 その瞬間左手から火の玉が飛び出してグランドオーガに向かう。

 俺はそのまま後ろ向きに転がり、勢いを殺さないように立ち上がって再び走り出す。

 その直後に後ろで大きな爆発音が響いた。

 火の玉はグランドオーガに着弾前に大きく弾けた。

 大きなダメージにはなってないようだが、体毛の一部に火が付いたのか立ち止まって身体を手で払って火を消してるようだ。


「よくやった!このまま町まで走ればなんとか!」


 残念なのは町からの救援は無いようだ。

 むしろ門を閉める素振りをしている。


「っちょ!頼む入れてくれ!」


 大声を上げればなんとか届きそうだと、声を上げる。

 ひと一人通れる隙間だけ空けて手で急げと合図を送ってくれる。

 救援は無いと思ったが頭の上を矢が超えて行くのが見えたので、少なくとも助けてくれる気は有るようだ。

 牽制にしかなって居ないがそれでもグランドオーガの足を遅くする事は成功したようで、なんとか間に合いそうだ。


「た助かる!」


 そう言って門の隙間に滑り込むと同時に門を掴んでいた兵士が素早く門を閉じた。


「はぁはぁはぁはぁ、た、助かった!」


 実際は息切れなんてし無いが、息切れの演技をしながら助けてくれた兵士たちにお礼言う。


「助かったじゃねぇよ!グランドオーガなんか連れて来るんじゃねぇ!」


 そう言ったのは、先ほど急げと合図をしていた兵士だ。


「す、すまない」


 他の兵士の目も非難の色が浮かんでおり、睨みつけらえていた。

 どうやらグランドオーガを引き連れて町に来るのは非難されるような事らしい。


「おい!グランドオーガはどうなった?」


 先程から声を上げていた兵士が城壁の上に向けて大声を上げる。


「大丈夫です!諦めて森に帰って行ってます」

「分かった!だが完全に森に入る迄は見張っておけ!」

「了解です!」


 どうやら、この兵士が個々の指揮官のようで暫くの間、他の兵にも色々と指示を飛ばし、ある程度落ち着いてからこちらに改めて目を向ける。


「にゃあ」


 そのタイミングで空気を読まないかのように気の抜けた声を上げて俺の肩にトリがとまる。

 おまえ……いままでどこに行ってたんだよマジで。


「……その鳥はおまえのか?」

「ええ……」

「まぁいい、話を聞かせてもらうからこっちへ来い」

「はい……」


 そのまま門横の兵舎のような場所を顎で指して歩き出す指揮官らしき兵士について後を追って歩き出した。


――――――――――

こんばんわ猫電話ねこてるです!

やっと街に着きました!

あと1話で1章は終わりです。

その後、閑話を一つ二つ挟んでから2章ですが、全く筆が進んでいないので、一旦休止します。

2章に入ったら本格的に宣伝活動しないといけないですね。


◇次回 入壁

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