第13話 出立
『それじゃ明日ここを出るが、最後に町で生活する為に準備していく必要な物を見直すぞ』
俺はそう言ってレスティに声をかける。
普通の鳥って結構早起きじゃなかったか?お昼まではまだまだ時間があるが、もう十分に太陽は上っているんだが……。
なんか鼻提灯出してる様に見えるのは気のせいか?
「必要なのはお金に換えられる物だと思うのですが、やっぱり薬草くらいですね……」
レスティは少し俯いて右手人差し指を下唇にあてながら残念そうに言う。
『そうだな、捕まえた獣の毛皮も良いかと思ったが、
獣の毛皮は俺の魔力体内で脂身等を分離させて毛皮部分にだけする事は出来なくはない、それに魔力体内に収めて居る間は腐らない様に外気に触れさせないで置く事はできるが、別に不思議空間に収納する理由じゃないから、何個も収め続ける程大き魔力体ではない。
一つくらいならと思わなくも無かったが、それでもその分魔力の絶対量をそれに使うと、色々行動の制限になるし、いざと言う時に一手送れる原因になっては目も当てられないので一切取って置いていない。
「そうですね……いくらかになれば良いのですが、薬草もどの程度のお金になるか覚えてなくてごめんなさい……」
『いや、いいよ仕方ない事だし、そもそも覚えて無いというか元から知らなかった可能性も有るじゃない?レスティは結構良い所のお嬢様だったと思うよ?』
実際、レスティの記憶を覗いた時の姿はお嬢様然としていたし、着てる服もボロボロだが良く見ればとても良い生地を使ったドレスだ。
『とりえずの所、この近辺に獣が残ってたら町に着くまでに腐らせる事無く持っていけるだろうし、毛皮を取るのも有りだろう。もしくは道程で狩れたらそれでも良い。あまり危険な事になって欲しくはないけどもね』
「そうですね、それじゃ今日は最後にもう少し薬草類を摘みに行きましょう!美味しそうな木の実とか有れば、そういうのも採っておいて欲しいです!」
『そうだな、そうしよう。……おいトリ!起きろ!』
「グレン!違いますよ!ネ・コ・さ・ん!です!」
『……、起きろ
俺がトリ呼ばわりしたら間髪入れずにレスティに突っ込みを入れられ、ため息混じりに渋々とレスティの付けた名前で呼ぶが、違和感半端ない……どっかでこいつ捨ててしまおうか。
「……
俺の考えてる事に気がついたように釘を刺されてうぐぅと内心呻いた。
それでも目を覚まさない
『まぁ今日の所は周辺の取り逃した薬草を集める位だし、このまま放置しておこう』
あわよくばそのままどっかに行ってくれても良いが、俺が心臓に縛りかけてるしなぁ……外しても良いが、縛り解いた途端にレスティに危害を及ぼす可能性が有る以上は今は無しだ。
「そうですね、良く寝てますから起こすのは可哀そうかもしれないですね」
そう言ってレスティは嬉しそうに口角を少し緩めた。
■
これまで、いくらか小さいので取らずに置いていた薬草を根ごと引き抜いては魔力体に収める。
この位のサイズの物なら実際には身体のない左半身の腕や足の部分に収めて行けば結構な量を持てる。
そうやって幾らかの新鮮な状態で
「うわぁ、すごい!ここきれいですね!」
感嘆の声を漏らすレスティの気持ちは分かる、俺も驚いて戸惑ってしまった。
確かにそんなに広い範囲では無いが十分に一面の花畑と表現しても間違いとは言えないような光景がそこには広がってた。
確かに、近辺とは言え全域をくまなく探索できていたとは言えないだろうが、これに気が付かなかったのは不思議な話だ。
以前木の上に登って見渡した時にはこのような開けた空間は見つけれなかった事も不自然だったし、なによりこの場所に足を踏み入れるまでは鬱蒼と茂った森だった筈。
「これって、
そう言って一歩後ろに下がってみるレスティ。
当然同じ視点なので俺の視点も一歩下がると花畑は忽然と消えた。
『これは凄いな……てかこの幻術使えるような生物がこの森には普通に居るのか……
「
そう言いながら、花畑が見える位置まで進む。
『だな、だが花畑を幻術でまで隠してるような生物ってなん』
俺が言葉を全て言い切る前にそれこそ疑問の対象が黒い塊の集団になってこちらに向かってきているのが見えた。
「きゃ!蜂!」
そう、蜂だ!
花畑を態々大事に隠すような生物と言ったら?と言う所だろう。
『大丈夫だ!俺の魔力体で包んでいるから蜂の針程度は通さないよ』
そう言ってレスティを安心させつつも念のためレスティの身体部分を包む魔力体を厚めにする。
『多分こいつらか、もしくはその親玉が花畑を食料として守ってるって所だろうな』
一匹の大きさはだいたい親指大くらいだろうか?結構な大きさだ。
大丈夫とは言ったがレスティに何かあったら不味いと思い急いで魔力体に収めていた薬草の内、鎮静効果のある草から薬効のみを抽出して熱操作の魔法で急激に熱して煙を発生させて蜂達に向けて吹き付ける。
濃縮で睡眠効果を期待してだ。
『効いてくれよ!』
効果が無ければ即撤退と考えながら煙を吹き付け続ける。
『お!いいね!良く効いてる!』
「え?殺しちゃったんですか?」
『心配ない!眠らせてるだけだ!』
本気で蜂を心配した訳じゃ無いだろうが突然の事に驚いたのだろう。
それにしても、効果抜群だな……人にも効くんじゃないか?
そう思って密かにレスティの口元の呼吸口にこの煙が通らないようなフィルターにしておいた。
そして一歩下がって、先ほど花畑の見えなくなった位置まで下がって確認したが未だに見えない状態は維持されている事を確認して、改めて蜂が来た方へ向かう。
『こっちから来ていたな……』
「……」
無口になるレスティ。
蜂が苦手なのかもしれない、少し強張った感じに身体を固くしているのが分かる。
『……無理に確認する必要は無いと思うけど、どうする?』
花畑を隠されて何か俺達に問題が有る分けでは無いし、幻術の主を確認する必要性も俺達にはあまりない。
もし確認する理由があるとすれば、レスティがそれを望むかどうかだ。
「……どうせですから、確認しませんか?」
ゴクリと喉を鳴らしてレスティは恐々と確認に行く事を提案してきた。
どうやらお望みのようだ。
『わかった、幻術の主は多分女王蜂とかだろう。まだ元気な筈だし他に残ってる蜂も居るだろうから、びっくりしないように慎重にいくぞ』
「はい」
恐る恐る進んでいると、同じ方角からたまに2~3匹の蜂が襲ってくる。
それらを眠らせながら進んで行くと、やがて花畑の入って来た方角とは反対側の端の大きな木の枝にそれは有った。
「おおきぃ……」
それは巨大でレスティの身体の三倍は有りそうな巨大な蜂の巣で拳大の蜂が残り少なくなった子分の蜂と共にこちらを威嚇していた。
『眠らせるぞ?』
「はい!」
一気に巣全体に先ほどと同じ煙を吹き付けると、女王蜂含めて抵抗なく眠りについて落下してしまった。
『申し訳ないけど半分程頂くよ』
地面に落ちた女王蜂に詫びを入れながらハチの巣下半分を魔力体で囲み、蜂蜜だけを分離して取り出す。巣や幼虫は傷付けない様にしながら。
「この子達、このままだと拙いですよね?」
蜂蜜を無事手に入れた事で落ち着いて状況を把握したのか、冷や汗でも流しそうな顔で地面の女王蜂達を見るレスティ。
『そうだな、このままだと幻術も消えてるだろうし、あっと言う間に襲われて巣は壊滅かな』
「そ、そんなひどい事軽く言わないでください!」
いや、まぁそういう状況にしたのは俺達なんだけどな、とは飲み込んで解決策を答える。
『大丈夫だ、直ぐに目を覚ますように気付けの煙も作ろう』
そう言って、刺激臭のある草(食事用の香辛料として使ってた)を先ほどの睡眠効果の煙同様の方法で刺激臭のする煙を作って少しだけ蜂達に吹き付ける。
すると、直ぐにふらふらとしながらも目を覚ました。
これなら大丈夫そうだ。
俺達は来た方向に戻りながら途中途中の地面に落ちてしまっている蜂達に同じように気付けの煙を掛けながらその場を去った。
■
「どれくらい取れました?!」
寝床に戻るとレスティは待ちきれないと先ほど取った蜂蜜の量を聞いてくる。
『そうだな、結構多きな巣だったから半分でも半樽位は有った』
そう言って、レスティに気が付かれないように背中に袋状にした魔力体を身体の前に持ってきてそう言った。
「すごい!」
『ああ、これならに結構な金額になるんじゃないかな?』
俺がそう言うと、目を見開いてレスティは一瞬静止した。
「あ、あ、そう、そうですね!お金になりますね!」
ショックと引き攣りと作り笑いが混じった表情でレスティはなんとかそれだけを声にだした。
俺は内心笑いながら答えてやる。
『大丈夫だ、全部は売らないさ』
「え?あ……すみません、有難うございます」
レスティは顔を赤くしながら俯いて小さなお礼をなんとか口にする。
『ははは、まぁ全然甘味にありつけない環境だったから仕方ないよ。それよりもさっき口にして気が付いたんだが、色々な持ち運びや保管用に樽作ればよかったなと。周りは木だらけなんだから』
そうして、周囲の木々を見て二人で笑いあったのだった。
――――――――――
こんばんわ
買ったばかりのPCが壊れて書きかけの二章が進みません(泣)
まぁ、焦る必要無さそうですが……
◇次回 魔物
街に着く迄が
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