第38話 【筋力強化】のマリー。


「ぐしゃっと潰れちまいな!!」


 マリーが身長ほどある金棒を僕めがけて振り下ろしてくる。

 念のためにバックステップでそれを回避した。

 金棒が地面に直撃すると大きな音を立てて地面が削れた。

 どう見ても人間離れした怪力。

 しかしステータスだけではなく、なにか別のタネがあるはずだ。


「魔法は使った形跡はないし……スキルで筋力を増強してるのかな?」

「御名答ぉ! あたいのスキルは【筋力強化】!! 常人なら持ち上げられないような重たいものでも軽々と持ち上げることができるのさ!!」

「なるほど、敵同士なのに教えてくれてありがとう」

「はっ……!?」


 マリーは今僕に手札を晒してしまったことに気がついたようだ。

 一瞬焦ったような表情になるが、すぐに首を振る。


「どのみち知られても対策のしようがないんだ! 押し切ってしまえばいい話だよ!」


 マリーはまた金棒を持ち上げてこちらへと突っ込んでくる。

 それからマリーの猛攻が始まった。

 金棒をブンブンと振り回すマリーの攻撃をいなし、受け止める。

 金棒をミスリルの剣で受け止めると、手全体が痺れて剣が持てなくなりかけた。

 攻撃を挟む隙が全く無い。


「ぐっ……!」

「ほらほらどうした! 守ってばかりじゃ勝てないよ!」


 防戦一方な僕を見て、マリーが余裕の表情を浮かべる。

 重そうな金棒をまるで棒切れのように振り回すマリーは、確かに厄介だった。


「はっ! 噂じゃ十人の冒険者を一方的にボコったって話だが、全く張り合いがないじゃないか! どうせ、ボコったのも雑魚ばかりだったんじゃないか!?」


 マリーの連撃は止まらない。


「いいぞ姉御!」

「そんな奴、やっちまえ!」

「姉御、がんばぇ!!」


 ノクタリアたちと戦っている百鬼組の仲間がマリーへと声援を送る。

 誰だ今舌っ足らずな声で応援したの。

 個性的な応援で思考が持っていかれそうになったけど、邪念を振り払い目の前の戦闘に集中する。


「勝っちまえ姉御! 雑魚刈りなんて、晒し者にしちまいましょう!」

「そうだそうだ! 明日の朝、スラム街の前に磔にしてやりましょうぜ!」

「雑魚狩りは気持ちよかったかなぁ!?」


 一人だけめちゃくちゃ僕を煽ってくる。なんだあいつは。


「これで……決まりだ!!」


 マリーが決着をつけるために、大きく金棒を振る。


「んー……もういっか」

「へ?」


 ミスリルの剣を振る。

 するとマリーの手に持っていた金棒が空中を舞った。

 金棒は空中で回転し、マリーから離れたところの地面に突き刺さった。


「なん、え……?」


 何が起こったのか理解できないのか、マリーは丸い目で自分の手と金棒を交互に見つめた。


「これで実力差は理解してもらえたかな?」

「ひ、ひぃ……!」


 僕がミスリルの剣の切っ先を向けると、マリーは真っ青になって震え上がった。


「な、なんであたいの金棒が……」

「君の【筋力強化】のスキルは確かに強力だ。筋力で差をつけられたら、対策のしようがないしね。でも力で勝敗が決すのは……ステータスが同じ相手だけだ」

「ま、まさか……」

「その通り。僕のレベルは54ある」

「ご、ごじゅう……」


 僕のレベルを聞いたマリーが驚愕に目を見開く。


「君は多分30くらいかな? いくら筋力を強化するスキルを持っていようが、ステータスで差をつけられてたら流石に勝てないよね」


 マリーは悔しそうにぐっと歯を噛み締めた。

 そして負けん気の強い笑みを浮かべる。


「くっ……! 確かにあんたは強い! でもね、あたいの仲間全員でかかれば、レベルが高かろうが勝てるんだよ!!」

「へえ、でもそのお仲間はやられてるみたいだけど?」

「へ?」


 僕はつんつん、とマリーの後ろを指差した。

 マリーはポカンとした表情で僕が指さした方向を振り向く。


「あ、あんたら……!」


 するとそこには地面に倒れている『百鬼組』の面々がいた。


「口ほどにもなかったわね」

「シーくん、あたし頑張ったでしょ? あとで撫で撫でしてね」

「シン殿! カエデも頑張りました、あとでご褒美をください!」


 ノクタリアは髪を払い除け、リリィは僕の方へと笑みを向け、カエデは元気よく腕を振っていた。

 地面に倒れ伏す『百鬼組』のメンバーは申し訳無さそうにマリーへと謝罪する。


「も、申し訳ありません姉御……」

「こ、こいつら強くて……」

「お、俺だけ執拗に顔をボコボコにされた……」


 僕を煽ってた男だけ顔が腫れ上がっていた。

 多分あれはリリィがやったな。

 僕のもとへとやって来たリリィたちが、僕へと彼らの処遇を尋ねてくる。


「シーくん、こいつらどうする? いっぺんシメとく?」

「私としては釘を刺す意味でも、少し派手にやった方が良いと思います」

「ええ、そうね」

「うーん、そうだなぁ……」


 僕が顎に手を当てて考えていると。


「ま、待ってくれ!」


 マリーが割り込んできた。


「あ、あたいはどうなってもいい! だけどこいつらはだけは逃がしてくれ! コイツラは大事なあたいの手下なんだ!」


 マリーの言葉に『百鬼組』のメンバーは心を打たれたような表情になった。

 メンバーの中に涙を拭っているのまでいた。


「あ、姉御……」

「あんたってやつは本当に……」

「俺等はあんたのそういうところに……」


 しかしマリーはそんな彼らに対してくわっと目を見開くと怒鳴りつけた。


「バカ! 何言ってんだい! ここはあんたらが率先して「代わりに自分がどうなってもいい」って言うところだろうが!」

「すっ、すみません姉御!!」

「えぇー……」


 ちょっと感動したのを返して欲しい。

 『百鬼組』を見ていると、なんだかそういう気分じゃなくなってきた。


「よし、見逃してあげよう」

「シンさん!?」

「こいつらを見逃すって言うの?」

「まあ、もう十分すぎるくらいやったからね。さ、どうする? 僕らの気が変わらない内に行ったほうが良いと思うけど?」

「あ、あんた行くよ!」


 マリーは立ち上がると、その場から一目散に逃げ出した。

 【筋力強化】で足の筋肉を補強しているのか、逃げ足が凄まじく速かった。

「あ、姉御、待ってくだせぇ!」

「置いてかないでぇ!」 

 『百鬼組』のメンバーは情けない声を出しながらその背中を追っていく。

 十秒後にはさっきまで戦闘があったのが嘘だったかのように、誰も居なくなっていた。


「一体何だったの彼らは……」


 姿形も見えなくなった『百鬼組』に、ノクタリアは僕らの言葉を代弁してそう呟いたのだった。





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新しく連載始めました!

『異能機関』というお話です!ぜひ見ていってください!https://kakuyomu.jp/works/16818093084864126498

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ダンジョンで、かつて夢見た冒険を。〜迷宮で冒険&仲間集めをしてたらいつの間にか美少女だらけの最強パーティーが完成していた件について〜 水垣するめ @minagaki

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