後日談その四  金色の誓い

「映画、面白かったねっ」

 私は映画が終わったあと、隣の舜くんに話しかける。

 雰囲気を盛り上げるため、とかじゃなくて本当に面白かった。ジャンルは——純愛ものかな? ただ舜くんの好みというか、私の好みだと思う。

「んー、たしかに。作画が綺麗だったし、声優も良かった」

 あのー。それ、作品が面白かったのか分かりません。作画も声優も話の内容とは関係ありませんよー。

「天音が気に入ってくれたのなら、それで良いってことでー」

 そう言った舜くんは、空ジュースが入っていた空の容器を持ち上げる。

「舜くん、それ飲んだんだ……」

「え? 美味しいけど。天音も今度飲んでみたら? メロンソーダのシュワシュワと紅茶の香りが合わさって美味しーよ」

 いや、どう考えてもまずいじゃん。あの緑色のメロンソーダに紅茶入れるんだよ? 意味わかんない。混ぜたあとの色はこげ茶で、どこから見ても美味しくない色になってたしね。

「舜くん、御曹司だからこういう物の味は分かるんじゃなかったっけ」

「え? これは美味しーよ。てか天音はそんなに言うなら飲めばいいじゃん」

「はぁ? 嫌だよ! 今から映画館のドリンクバーに行っても、メロンソーダと紅茶を混ぜて入れていたら変な目で見られるもん」

 さっきの舜くんも、かなり見られてたけどね。視線がどす黒ジュースに向いていたのか、顔の方を向いていたのかは知らないけど。

「ふーん。でも、目立てて良いんじゃない?」

「ぜんっぜん良くない!」

 それに、あのまずそうなジュースを飲むのもやだ。単品だったら絶対に美味しいのに、何でわざわざ混ぜてまずくするのかなぁ。

「ちなみにだけど……、舜くんはジュースを他の組み合わせで飲んだことあるの?」

 美波ちゃんは、前にコーヒーとオレンジジュースを混ぜたら美味しくなかったって言っていた。

「全部混ぜたことが一回、くらいだけど。あれはさすがにめっちゃ不味かった。何て言えばいっかな……。フルーツ系のジュースは普通にいけんだけど、コーヒーがとどめさしてくる感じ。こっちこそ天音におすすめかなー」

 にこにこ笑う舜くん。うん、レストランのドリンクバーで舜くんにドリンクとりに行くの任せちゃいけないね。全部混ぜて持ってきそう。

「絶対に飲まないから安心して。——それと、お母さんに花火師にならないことオッケーもらったの!」

 私のお父さんはお母さんの言いなりだから、お母さんがオッケーすればすぐに解決なんだ。

「へぇー、良かったじゃん。天音がんばったね」

 そうつぶやいた舜くんが、目を細めて嬉しそうにほほえむ。ついでに、よしよしって頭も優しくなでてくれた。……とっても気持ち良い。

(やっぱり、舜くんって優しいしかっこいいなぁ。今回お母さんに言えたのも、舜くんのおかげなんだし)

「……舜くん。大好き、だよ」

 幸せすぎて、おもわず言葉がぽろっともれる。映画館の照明が、私たちを明るく照らしていた。

「ん、俺も。かわいい天音のこと大好き」

 ふわりと、気付いた時には舜くんに抱きしめられていた。舜くんのバニラビーンズの香りが、優しく私のまわりを漂う。

 ——灰色だった私の世界は、今日も金色に彩づいていて。

 君と過ごす時間は、私にとってかけがえのない大切な時間なんだよ。

 君にとっても、この時間が素敵な時間になりますように。

 そんなことを私は、金色の君に願ってしまうんだ。

 明日も君の世界が、美しいものでありますように。


 神様。

 この金色の世界に、祝福を——。

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君の儚き世界は絶望と希望に染められる🫧 ──私と君が出会ったのはきっと偶然なんかじゃない。だけど、君は私に隠している秘密があった── ・:・あんみつ・:・ @risako0103

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