第24話 フレッド

塔を出た二人は急いでバッカスまで向かう。


町の近くまで来ると何か物々しい雰囲気をシルスラは感じた。



町の外にフレッドがいるのが見えた。

二人を見つけるとフレッドは駆け足で向かってくる。



「フレッド君。遅くなったね。これ飲んで。きっと声が出るはずだよ」


キッドはフレッドに聖声水を手渡す。



「あー、あー。本当だ。声が出る」


聖声水を飲んだフレッドは自分の声が出るか確かめた。



「やったね。これでガルーダさんを助けられる」


キッドは飛び跳ねながら喜んだ。



「それより大変なんだ。君たちが牢屋から脱出したのがバレちゃって。それでお父さんすごく怒って。ガルーダさんが、ガルーダさんが」


フレッドは動揺しているようだった。



「早くバッカスに行きましょう。話はそれからだ」


シルスラは何かを感じたのかキッドとフレッドを急かす。




町に着くとそこで見た光景にシルスラとキッドは絶句した。

ガルーダが磔にされておりそれを町人、衛兵が取り囲んで見ている。中心にはフレッドの父親がいた。



「仲間を逃すとはなかなか友達思いなんだな。もう一度聞く。仲間をどこにやった?」


フレッドの父親はガルーダに尋ねる。

しかしガルーダは全く口を開かない。



「チッ。しかしあんな雑魚どもに逃げられるとはお前らも情けないもんだな」


フレッドの父親は怒りの矛先を衛兵達にも向ける。



「まあ良い。こいつだけでも駆除しておこう。おい、火をくべる準備をしろ」


衛兵の一人に命令をする。



「やめてー!」


見るに耐えなくなったフレッドは今度は大声で叫んだ。



「フレッド。お前、声が出るようになったのか?」


声の出るフレッドが目の前に現れたことで父親は一瞬表情が緩んだ。



「ねえお父さん。お願いだからガルーダを殺さないで」


フレッドは声が出ることを父親と喜び合うこともせず必死に訴えかけた。



「何を言っている。こいつは魔物だぞ。魔物は全て殺さないといけない。ん?」


父親はシルスラ達に気付くと衛兵に二人も捕らえるよう命じる。



「ワハハ。わざわざ殺されに戻るとは本当に馬鹿だな。所詮魔物なんて馬鹿しかおらんか」


父親にはフレッドの訴えが届いていなかった。



「市長。準備整いました。いつでも大丈夫です」


衛兵が火をくべる準備が完了したことを報告する。



「よし。すぐにやれ」


市長は全く動じず衛兵に指示する。



「ダメだったら。やめろー!」


フレッドは火をつけようとする衛兵に飛びかかる。



「いい加減にしなさい。私をこれ以上困らせるな」


市長は怒鳴る。



「それはこっちの台詞だよ。なんで僕の言うこと聞いてくれないの。この魔物さんたちは僕のことを助けてくれたんだよ。この前、他の魔物に襲われている時もこの声が戻ったのだってそこにいる二人のおかげなんだ」


フレッドも負けじと大きな声で対抗する。

それに町人や衛兵達はざわつき動揺しているようだった。



「馬鹿馬鹿しい。薄汚れた魔物共がそんなことをするわけないだろ。お前は洗脳されているんだ。目を覚ませ」


フレッドの言うことを父親は信じようとしない。



「なんで信じてくれないんだ。ただ魔物だからって理由で殺そうとするなんてそんなの魔王と何も変わらないよ。お父さんの方がよっぽど悪者に見えるよ」


フレッドは父親のことをこれでもかという程否定した。



「うるさいうるさい。おい、お前がやらないなら私がやる。そこをどけ」


フレッドの言葉に動揺している衛兵に向かって市長は言い放ち自らガルーダに火をくべようとする。



「そんなことしたってジェニファーは戻らないよ。そんなことしたってジェニファーは喜ばないよ。そんなことしたって」


フレッドは町全体に響く程大きな声で叫ぶ。


そんな声にハッと我に返ったように市長はその場で泣き崩れてしまった。




フレッドはただただ泣き崩れる父親に代わり衛兵に指示をする。

そしてガルーダ達は解放される。



すると急に雨が降り始めた。悪魔に取り憑かれたような言動をしていた市長を清めるように。


先程までは町の中央に全員集まっていた住民達も雨をしのぐため散り散り家へ戻り始めた。


シルスラ達もフレッドの勧めで市長の家で一夜を明かすことになった。




そして長い長い夜が明ける。

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経験値いっぱい持ってるスライムだけどそろそろ辛い ぺんた @gikogiko

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