第23話 老人と老婆
目を開けるとそこはもう塔の最上階だった。
変わらず老人が椅子に腰掛けていた。
「おお、戻ったか」
老人がワープしてきたシルスラ達に気付いた。
「ん。そこにいるのはローズか?」
老人は思わぬゲストに目を丸くした。
「ほら、おばあさん。おじいさんに用があるんでしょ?」
今までのハキハキした様子からは想像できないくらいにモジモジとしている老婆を見てキッドは言った。
「そ、そうじゃったな。久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりじゃろ?」
キッドに促された老婆は老人に言う。
「本当じゃの。ワシの手紙読んでくれたかの?」
老人は尋ねる。
「もちろんじゃ。歳に似合わんことしおって」
そう言いながら老婆は頬を赤らめた。
老人の手紙は呪いの手紙でもなんでもなくラブレターだったようだ。
「じゃあワシと一緒に?」
老人は声が上ずる。
「ああ、今までなかなか踏ん切りがつかんくての。じいさんの手紙でやっとワシの気持ちも伝えられるよ。ワシもじいさんと一緒にここで住みたいんじゃ」
老婆は言う。
手紙の内容は一緒に塔で住まないかというものだったようだ。
「やったぜ。さあローズ。こっち来てくれ」
老人はいつの間にか若者に戻ったかのように言葉使いが若くなる。
「はい。トム」
老人はトムというそうだ。
老婆もトムと同じく若返りしたように見える。
トムの手招きでローズはすぐそばまで近付いた。
するとトムはローズをぎゅっと抱きしめる。
「ああ、ローズ俺はずっとお前を思い続けていたよ。これからは墓場まで一緒だぜ」
「嬉しいわ。私も同じ気持ちだったの。もう50年も思い続けたわ」
お互い素直になれなかったそんな子供のような老人達の恋が半世紀の時を経て実った。
そんな二人の抱擁をシルスラとキッドは見ていた。
「あ、僕たちはお邪魔みたいだからこれでサヨナラするね。そうだ。もうこれいらないよね。これからはトムさんのことだけ見てあげて」
そう言ってキッドは老婆に青い石を返す。
「お、おお。すまんの。おぬしらはこれからバッカスに行くんじゃったな。気をつけて行くんじゃよ。どんなときも負けるでないぞ」
ローズは急に恥ずかしくなったのか老人の言葉使いに戻る。
「はい。色々とありがとうございました。トムさん、ローズさん」
シルスラは礼を言う。
「じゃあ、ずっとここにいるのも悪いからそろそろバッカスに向かいますね。本当にありがとうございました!」
再度礼を言った後、二人は魔法陣の描いてある床に乗った。
「ガルーダさん。待っていてください。もうすぐで助けますから。生きていてください」
シルスラはここにはいないガルーダに向けるように呟いた。
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