前世

 駅から十分ほど歩いたところにある小さな映画館で僕らはあるイタリア映画を観た。主人公は亡くした恋人を忘れられずにいる男だった。ラストで、彼は死んだはずの恋人と明るい森の中で再会するのだった。僕は、その主人公の感情に覚えがあった。

 映画館を出ると、近くの喫茶店へ入った。映画の話を始めると、思い出して彼女は泣いてしまった。薄い桃色の小さな花柄のワンピースに涙の跡ができた。

 僕らは、また夏の日差しの元に滲み出た。彼女は歩いてすぐの教会へ行こうと言った。彼女は無宗教だと思っていた。

 教会は林を後ろにして、住宅街の隅に建っていた。屋根の影に隠れた外壁の十字架にはヒビが入っている。

 中へ入ると、大きな十字架が奥にあり、その向こうは全面がガラス窓で、明るい陽が差している。森の中にいるような気がする。

 教会の椅子に腰掛ける。

「覚えてる?ここ。私もさっき思い出したの」

 彼女が言う。

 僕は改めて教会を見渡す。

 僕は思い出した。僕はいつか、ここで彼女の葬式をしたのだった。

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恋色の街角で 春一番 @aiuewo_

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