晃一、言い訳する

「ところで晃二君、どうして君は奏音を知っているのでしょうか?あと、なぜあなたが奏音専用の許可証を持っているのでしょうか?」


 鈴木さんの目の色が変わった。俺を値踏みするような目でじっくりと見てくる。

 やだなあ、そんなに見つめられると恥ずかしいですよ~……って違う!今考えるべきは、どうやってこの場を切り抜けるか、だ。


 どうやって切り抜けたらいいんだ?えええええ~どうしようどうしよう……俺の言っている「奏音ちゃん」が鈴木さんの娘だってことは話の流れからばれているし……。


「晃二君?」


 ああああやばいやばい。変に間が空くと余計怪しまれる!!……はっ!ひらめいた!


「奏音ちゃんの通っている幼稚園って、はいから幼稚園ですよね?俺、母がそこに勤めているんです。それで、学校が休みだったりするときに、手伝っているんです。その時、奏音ちゃんによく会うんです。あと俺、晃二じゃなくて晃一です」


「本当に?」


 まあ半分ほどは。

 ちょっと信じてくれたかも?


「本当です!俺、コウにいちゃんって呼ばれていて、結構懐かれているんですよ」


「そう、信じてみることにします。ただし、嘘だとばれた場合は、ロリコン疑惑で警察に届け出ますのでご承知ください」


 こっっわ。え、何ロリコン疑惑って。そんな犯罪名ないと思うんですけど。ていうか俺、ロリコンじゃないんですけど。


 そんな感情はおくびにも出さず、俺は笑顔を返す。もしかしたら冷や汗くらいはかいていたかもしれないが。


「信じてもらえてよかったです!それでは、失礼しまーす」


 そろりそろりと後ずさる。急に襲われても回避できる距離まで離れると、踵を返して脱兎のごとく逃げ出した。


「あっちょっと!待ってください晃二君!まだ聞きたいことが」


 晃一です。




 五分後。


 ぜえぜえはあはあ。

 ……追いかけられていないよな?大丈夫、だよな?


 少しデジャヴを感じながら、大きく呼吸をする。


 すううう、はああああ。すううう、はああああ。


「さて、パンフレットももらったし、奏音ちゃんのお母さんにも会えたし、帰るか!これだけ頑張ったんだ、きっとお給料も出るだろうし」




 行きに乗ったのと同じ電車に乗るため、歩く。

 今度こそ一駅前……いや、二駅前で降りるんだ!酔い止めも飲んだし、もうトイレにこもることはないだろう!

 そう決心しながら。


 だが、また俺は忘れていた。酔い止めには、飲むタイミングがあったことを。そして俺は、気が急くあまりかなり早い段階(電車に乗る2時間以上前)に最後の一粒だった酔い止めを飲んでしまった事を。


 そして2時間と少しが経ち、電車に乗って10分後。。


「おうえええええ」


 俺はトイレにこもっていた。

 思いっきり吐きたいのに、飴と水しか食べていなかったから、何も出てこない。それがものすごく気持ち悪い。


「おうええええええええええ」


『コウ、乗り物酔いになった時は、なるべく遠くの景色を見たり、文字や絵、同じものをずっと見ないほうがいいのだよ。あと薬を服用するときは、用法をきちんと読む。ちゃんと読まないからこんなことになるのだからね。自業自得』


 とってもむかつく脳内深鈴がささやく。むかつくが、俺はそれを信じ、遠くの景色を見るため自分の席へと戻る。ちょうど電車は駅に滑り込んだことろだった。そしてふと、


「今どこだろ」


 と、駅の案内表示を見ると。

 なんと最寄り駅を二駅も過ぎていた。酔っている場合じゃない。


「おう、のおおおおおおおおおお(OH,NO)!借金があああああああああああ!深鈴がああああああああああ!」


 白い目で見つめられつつかなりの不審人物となり果てた俺は叫びながら閉まりかけていたドアをくぐり抜け改札まで走りピッてして出口までの階段を駆け上がりそして。


「ここどこ?」


 放心状態になった。

 無理もない、出口を間違えたのか、俺は深鈴の言う、「変態さん用のお店」が立ち並ぶ所に来てしまっていたのだ。


「あー、えーっと、どこから戻ればいいんだ?」


 辺り一面ピンク色の中、俺はつぶやいた。


『説明しよう!戻りたいときは、来た道をたどればいいのだよ!当たり前のことだがね!』


 うるさい。

 あ、なんかかわいいメイドさんが客引きしてる~かわいいな~……。


『コウそんなとこ行ったらかなりの確率で戻ってこれなくなるよ具体的にいうとかわいい女の子に騙されてぼったくられて借金まみれになって挙句の果てにはコンクリ固めにされて海にドボン』


 怒りを含んだ声で脅された。脳内深鈴のくせに生意気だ。


 生意気だけど。でも海にドボンは絶対やだ!帰ります帰ります!


 とりあえず駅の中に戻った。そして地図を探す。スマホの充電は先ほど切れてしまった。


「あ、あった」


 えっと、家の方面は……嘘だろさっきのやばいとこじゃないか!?

 しょうがないので目をつぶってダッシュで駆け抜ける。


「あ、そこのおにぃーさぁーん♡待ってくださいよぉー♡」


 なんかめちゃくちゃ可愛い声が聞こえてきたが、全力で思考から追い払う。無視無視。


 晃一は走った。それはもう、めちゃくちゃ走った。だがその5倍は歩いた。なのでそんなに疲れていない。そしてその2倍は立ち止まっていた。なぜなら、方向が分からず迷子になりかけたことが1度や2度ではないからである。


「深鈴、奏音ちゃん、ただいまあ~」


「お帰りコウ。さて、どんな収穫があったのかな?」


「コウにいちゃんおかえりー!おみやげばなし、きかせてー!」

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俺の幼馴染が超能力者かもしれない 藤田ルミナ @Fuji_rumi

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