晃一、会社から脱出する
扉にはめ込まれた液晶パネルに、文字が映し出されているのだ。
「何だ、これは……」
読んだ俺は、そう言うしかなかった。
そこにはなんと、1x1から100x10までの計算問題が映し出されていた。どうやら、かける数は10までらしい。
『アナタヲ認識シマシタ。コレヨリ、脱出ミッションヲ開始シマス。問題ヲスベテ解キキッテクダサイ』
突然、機械的な音声が流れてきた。計算問題か。ちょっと苦手だけど、まあ30分もあれば終わるでしょ。
そう思っていると、床から急にメモ用紙と鉛筆を乗せた机がせりあがってきた。体に激突しそうだったので、慌ててよけた。危ない危ない。
メモ用紙と鉛筆?なんで出てきたんだ?
『ドウゾソレデ筆算ナドナサッテクダサイ』
おお~良心的。
『制限時間ハ10分デス。デハ、3秒後に始めます』
じゅ、10分!?絶対足りない絶対足りない!!
モニターは無情にもカウントダウンの数字を表示する。3、2、1。
ゼロ!
こうなったらやるしかない!!俺はもう頑張った。殴り書きをしようと思ったが、機械がうまく認識してくれないのではと思いつき、丁寧に書きはじめた。
いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん、いんしがし……。
12x10までは記憶力を頼りに、猛スピードで書き切った。残り時間は、8分23秒。このままだとギリギリ足りない!できないかも。
そう思った時、脳内深鈴がひょっこり現れた。
『悩んでるねえ少年。多分2度目があるから、安心して。何回も挑戦すれば、そのうちクリアできるよ』
ほんとに?
『たぶん。きっと。……おそらく。2度目があ……るはず』
ひっじょーーーうに怪しいが、まあ信じてやってみる。
13かける1は13、13かける2は26……。
深鈴の言った、2度目がある、を信じているので、なるべく答えを覚えながら回答を書いていく。
『残リ3秒デス。3、2、1、終了デス』
シュウンっと音を立てて画面が暗転し、、点数が表示された。
結果は……125/1000点。
「8分の1かあ。なんか全クリできる気がしないぞ」
『設定変更シマスカ?』
え!?設定変更できるの!?最初に言ってほしかった……。
「しますします!どうやったらいいんですか?」
『右上ノ設定マークヲ押シテクダサイ』
あ、ほんとだ。もう、押してくださいとばかりに設定マークがドーンとある。
ぽちっとな。
『上カラ3番目ノ時間変更設定ヲ選択シテクダサイ』
ぽち。ああ、ここから時間が設定できるのね。ふむふむ。では上限値の1時間かな。
再スタートするか。と、ボタンを押そうとすると、
『教エテモラッタコトニ対シテ感謝ヲ言ワナイトハ何事デスカ!!』
「ぐぼあ!」
壁から飛び出てきたタオルにひっぱたかれた。おかあさんみたい。
『アリガトウハ?』
「ああ、あ、ありがとうございます!!とっても助かりましたあ!」
ほぼ、土下座の体勢で感謝をする。
『ヨロシイ。デハ1秒後ニ2回目ヲスタートシマス』
あまだ怒ってる。
スタート!
なるべく時間をかけたくない。さっさと解かねば。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
書き書き書き。
書き書き書き。
書き書き書き書き書き書き書き。(337拍子)
『残リ3秒デス。3、2、1、終了デス』
結果は……896/1000。
終わんない!!!これ絶対終わんない!
頭を抱えて悶絶していると。
「ああっ!ごめんなさい!」
少し高い、女の人の声がした。
「誰!?」
「ああ申し遅れました、私、この会社に勤めております、鈴木と申します」
鈴木さんは、長いつややかな黒髪を高い位置でまるめた(髪形の名前は知らない)、ものっすごい美人さんだった。
「あ、俺は、晃一、一ノ瀬晃一です」
「晃一君ね。晃一君。晃一晃一晃一晃一晃一」
え、何怖い!
「よし覚えた。で、私何でここに来たんでしたっけ?」
「えーっと、なんか、ごめんなさいって言いながら走ってきましたけど」
「そうそう、そうでした!あーもう、本当にごめんなさい!この脱出プログラムは、奏音がこの会社に遊びに来た時、最後に出ていくときに発動するものなの。奏音専用の許可証に埋め込まれてるチップに反応して発動しちゃったんですね」
「晃一です。え?今奏音っておっしゃいました?」
「ええ。奏音は私の娘ですもの」
「でもさっき、鈴木って名乗ってましたよね」
「はい」
「名字違うじゃないですか。なぜ?」
「私、社長の秘書になった後で結婚しましたので、仕事の場では旧姓を名乗っているのです」
なるほど。
「あの、質問があるんですけどいいですか?」
「はいどうぞ」
「さっき、設定時間が10分になってましたけど、まさか奏音ちゃん、10分で解けるんですか?」
「さあ」
「さ、さあ!?」
「この間は20分で解けたとの報告が入っております。なので10分に設定されたのかと」
超人か奏音ちゃん。
鈴木さんが何かに気が付いたようなそぶりを見せた。すうっと目が細くなる。
「ところで晃二君、どうして君は奏音を知っているのでしょうか?あと、なぜあなたが奏音専用の許可証を持っているのでしょうか?」
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