番外編 深鈴のしていたこと
晃一が野営をしているころ、私、深鈴は、寝ていた。当たり前だろう、それまで一睡もせずに徹夜で奏音ちゃんの両親が経営する会社(長いので、以下、会社)について調べていたのだから。
「ああ、よく寝た」
愛用の鉛筆型目覚まし時計を止めて、私は身を起こす。
「さてと、昨日調べたことを見直してみよう」
愛用のパンダ型メモ帳を取り出す。別にメモなど、取らなくても覚えられるのだが、メモを取ることが好きなのと、万が一の場合に備えて、調べたもののメモはたいてい取ってあるのだ。
「奏音ちゃんに直接聞いて分かったのは……」
・奏音ちゃんは大会社の社長の娘。
・風船が大好き(特に赤)。
・お父さんは厳しいらしい。
ということ。
「で、コウと一緒に調べて分かったのが……」
・奏音ちゃんがいることは公表されていない。
・奏音ちゃんの父親は社長、母親はその秘書としてその会社に勤めている。
・奏音ちゃんの家は大きな財閥で、祖父は会長をしている。
・奏音ちゃんの両親が経営する会社はかなりの大会社だが、その会社が倒産しても、祖父の率いる財閥には、ほぼ影響は出ない(つまり、それほど大きな財閥だ、ということ)が、大っぴらには公表されていない。
ということ。
コウにも言ったとおり、これではまだ全然情報が足りない。奏音ちゃんの周りの人に、奏音ちゃんを避けるなと脅し……もとい、説得しなければならないのだ。これでは全然脅す材料……もとい、説得する理由にはならない。
「そうしたら、ちょっと奥の手を使って調べてみるかな」
闇サイトを立ち上げる。ここには、たくさんの珍しい情報が高値で取引されているが、たまに希少な情報とは知らず、超安値で売っている者もいるのだ。それを狙っていく。ちなみに、ハッカー対策は完璧である。
自分で開発した自動検索ソフトに、調べてほしいことのリストを読み込ませ、放置する。これで全て調べてくれるのだから、全く自分も便利なものを作ったものだ。
「次は、あれだな」
裏の世界で使用する用のスマートフォンを取り出す。
「ぴ、ぽ、ぱ、ぽ、ぴっと」
ぷるるるるるるる。
「もしもし。エムムンだ。あの会社についてもうすこし調べてほしいことがある。報酬は40万でどうだ?」
先ほど、コウと一緒に調べた時にも協力してくれた情報屋と連絡を取る。
自分で作った機械を通し、声を変えてしゃべる。ちなみにエムムンとは私のコードネームだ。深鈴の頭文字のMになぞらえてある。この界隈ではとてもセンスのいいコードネームだと注目されている。
「40万じゃ足りないし、死を連想させられるからいやだ?文句を言うな。しょうがない、50万でどうだ?ええ?賭博もやっているからゾロ目がいい?特別だぞ、44万4444円だ。あ、4は死を連想させるからいやなのか。わがままだな。55万5555円。これでだめだと言ったらお前の個人情報をばらまく。私には他にも腕利きの情報屋の知り合いがいるからな」
もちろんはったりだが、相手は信じてくれた。情報屋というものは情報を集める能力はあるが、運動神経が壊滅的だったりと、その情報を使う能力がないやつがなることが多いため、ぶっちゃけ言ってまあ弱いのだ。
ちなみに、たまに戦闘能力も兼ね備えた超人みたいな情報屋もいる。だから「腕利き」と言ってみたのだが、どうやら心当たりがあるようだ。電話を切ったら、すぐに、ばらさないでほしい、とその「腕利き」に頼むのだろう。依頼を承諾する声に焦りが浮かんでいた。
その情報屋に、有益な情報が入ったら連絡をしてほしい、と頼み、仮眠をとることにしたのだ。うん、そうだった。で、電話が鳴ったから起きたんだ。早くとらなくては。
「もしもし」
『ノレロだ。有益な情報が手に入った』
裏の世界では、電話はかけてきたほうから名乗るのが暗黙のルールとなっている。それにしても、ノレロってセンス悪い名前だなあ。
「そうか、何だ?」
とりあえず情報を買い取ることを優先させる。
「あの会社はやばいぞ。ちょっと探っただけで、外国の組織がいろいろ関与してる。さらに、あの財閥もまずい。なんでも政界と関わってるらしくて、発言権もかなり強い。なんで俺にあの会社を調べさせるんだ?あっちにばれたら消されそうで怖いんだが」
まったく、こいつは仕事も早くて有能なくせに臆病なのが玉にきずだ。もったいない。
「そうか、ありがとう。報酬は18時にいつもの場所に置いておく。早まって来るなよ。私の部下に消されるぞ」
つーつーつー。
「さて、次はあいつに調べてもらうか。似たような情報でも、多いに越したことはないからな」
そうして情報が集まったら、ゆったりとコウを待とう。
そろそろ朝である。奏音ちゃんも起きてくるころだ。
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