晃一、会社に潜入する
『本日会社創立日につき、休み』の紙が貼られていた、奏音ちゃんの両親が経営する会社(長いので、以下、会社)の壁を目にし、凍り付いた俺。
「どうすればいいんだ……?」
3秒ほど悩んだ。わからなかったので深鈴に電話をかけた。
「もしもしコウ?どうしたの?」
「深鈴~。会社が休みで入れないんだよお~」
「ふーんあっそう。それだけ?許可証渡してあるでしょ。会社が開いたら入ればいいから。じゃあ早く切ってくれる?」
電話はかけた人が切る、という細かいことにこだわる深鈴。そんなんだから友達がいないんだぞ!
「…………(無言の圧)」
「ねえ深鈴、泊まり賃って経費で落ちる?」
「無理だね。自費でどうぞ」
「そこを何とか!お願いします深鈴様!」
「ダメ。早く切って。ほらコウ、携帯の充電大丈夫?」
「大丈夫じゃない……あと半分とちょっと……」
「早く切りなさい」
「はーい」
ため息をつく。
今晩は野宿かな……。このあたりに他に泊まれそうな場所もないし。でも屋根は欲しいな。
いいことを思いついた。会社のエントランス前には屋根がある!よって、雨が降ってもぬれずに野宿ができる!
今の時間は……14時か。お腹が空いたな。
常備してある飴をなめて、空腹を補う。最近はいろいろな飴が出ているから、つい、いろいろ買ってしまうのだ。なので、いつでもなめられる(賞味期限内に消費する)ようにするため、全種類5つずつぐらいで持ち歩いている。
今日は、コーンポタージュ味、肉じゃが味、みたらし味をなめる。うんおいしい。おいしいのは全然ウェルカムだけど、のどが渇くんだよな……。田園地帯だし、水とかないかな……。でもさすがに田んぼの水は汚いよな……。
ひらめいた。
この会社には花壇がある。ということは…………水道も外にある!ということは…………水が飲めるぅ!
早速水道の蛇口を探す。もうこの際、ホースの先でもいい。この会社には今どき珍しいことに防犯カメラがついていないから、心置きなく探すことができる。別に許可証を持っているから、後ろめたいことなどないはずなのだが。
「えーっと、たいてい、蛇口みたいなのはあんまり目立たないところにあるはずだから、裏のほうから重点的に探して……あった!」
ビンゴ。そっと周りを見渡し、誰も見ていないことを確認する。よし飲もう、と思った時。
『コウ。そういうホース内の水は、中に泥とかがついているかもしれないから、いったんホースを外すか、水を30秒以上は流してから飲むのだよ』
脳内深鈴がうるさい。けど、自分の命が大事だ。ここは怒りをぐうっと我慢して、深鈴の言うことに従う。
少し考え、水を使いすぎるのは、会社側に水を使ったことがばれるので、30秒以上水を流すやり方はやめておくことにした。
ホースを外すやり方にした。ホースを外す。
「ホースを取り付けるの、苦手なんだよな……」
『文句言わずやりなさいコウ。人間は、水を飲まないとすぐ死んでしまうよ』
脳内深鈴がほんっとうにうるさい。でも正論なので、何も言い返せないのがしゃくに障る。
ホースを外したら、手を洗う。なぜ手を洗うのか?それは、俺がコップを持っていないからに他ならない。コップがないならどうする?手で飲む!という自問自答を繰り返した結果である。
ちなみに、コップはないが、紙せっけんは常備してある。いつの日か、深鈴にもらったのが便利すぎて、詰め替えも買って、愛用しているのだ。なので、手はめっちゃきれいになった。
いざ。水を飲む!
「くはぁ、生き返る」
生き返った。ものすごい勢いで飲み下し、本当にのどが渇いていたのだな、と実感し、苦笑する。確かにみたらし味はおいしいけど、甘っ辛いからのどが渇くんだよな。
「もうほんとにホースのつけ方わからん。誰か助けて」
携帯のプードル先生に頼もうにも、充電を残しておかないと、いざとなった時に大変なことになるので、頼めない。泣く泣く、元通りっぽい感じに直した。
『それは直したとは言わないよ。とりあえず無理やりくっつけた、って感じだね。まったく、コウは脳筋だから』
脳内深鈴を蹴り飛ばそうと思ったが、何もないところを足は空回りしただけだった。悔しい。
『ほら、すぐ人を蹴ろうとする。そういうのを脳筋というのだよ』
黙ってほしい。本当に。
まあそんな感じで一夜を明かし、次の朝。
「ふぇ?もうあさ?」
慣れない体勢で眠っていたためか、かなり早い時間に目覚めることができた。まだ誰も社員は出勤していない、はずである。朝ごはんは、メロンパン味と、ミルク味と、オレンジ味にした。あ~あ、これが本物のメロンパンと牛乳とオレンジだったら、バランスのいい食事なのに。
夜のうちにコツをつかんでおいた、ホースのつけ外し。それを生かすため、水を飲む。
うんおいしい。
その後、出勤する社員たちに見つからないようにするため、少し離れたところで、2度寝をする。まあ10時くらいに起きればいい感じに社内に入れるだろう、と考えて。
そして10時をちょっと過ぎ。
「はっ!寝過ごしたか!?まあ大丈夫っしょ」
謎に出てくるハイテンションで飛び起きた俺は、会社に向かって歩き始めた。
てくてくてく。
てくてくてく。
てくてくてくてくてくてくてく(337拍子)。
を、14回ほど繰り返すと、会社に着いた。
中に入る。あっさりと入れた。それにしてもエントランスに誰もいないなんてことがあるのか?
パンフレットが置いてあったのでありがたくもらった。よし帰ろう。簡単だったな。
てくてく……んん?扉に何か書いてある、いや違う、扉にはめ込まれた液晶パネルに、文字が映し出されているのだ。問題っぽい。
「何だ、これは……」
読んだ俺は、そう言うしかなかった。
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