晃一、会社に行く
「奏音ちゃんが中学で自殺する!?そんなのやだ!深鈴どうにかしてよ!」
「私だけに働かせる気?それならお金取るよ。時給10万」
「ごめんなさい俺も一緒に阻止しようと思いますいえ誓います今!」
「よろしい。では、敵を知り己を知れば100戦危うからず、だね。自分たちのことはいいとして、まず奏音ちゃんとその周りについて調べてみよう」
早速、深鈴と一緒に奏音ちゃんの父親が経営しているという会社、そして奏音ちゃんの両親について調べてみた。
分かったことは、
・奏音ちゃんがいることは公表されていない。
・奏音ちゃんの父親は社長、母親はその秘書としてその会社に勤めている。
・奏音ちゃんの家は大きな財閥で、祖父は会長をしている。
・奏音ちゃんの両親が経営する会社はかなりの大会社だが、その会社が倒産しても、祖父の率いる財閥には、ほぼ影響は出ない(つまり、それほど大きな財閥だ、ということ)が、大っぴらには公表されていない。
ということ。
ちなみに、最後の項目だが、公表されていないことがどうしてわかったかというと、深鈴が調べてくれたのだ。具体的な手段は聞かなかったが、電話をして、情報を集めている深鈴の口から、聞いたことのないような額の数字が飛び出した、とだけ言っておこう。
「深鈴、情報これで足りる?」
「足りない。全っ然足りない。ということで現場100篇。コウ、奏音ちゃんの両親の経営する会社に行って調べてきて」
「え~深鈴は?」
「私はここで調べているから。ほら今日はとにかく帰って寝る。もう日付が変わるよ」
翌日。
「ねえ深鈴も来てよ~」
「ほら文句言わずに行ってきなさい。時給1500円、借金返済になるから」
「まじで!?やってきます!!」
「わざと時間稼ぎするのはだめだよ」
ぎくっ。
「当たり前でしょ。情報収集時間に情報が見合っていなかったらお給料はなしだからね」
「そんな……」
「はい、いってらっしゃい。これ、入館許可証ね。持っていかないと不法侵入になっちゃうから」
ブルーの紐のついた肩掛けパスみたいなのを渡された。
……どこから調達してきたんだ?
「これはね、奏音ちゃんから借りたのだよ。奏音ちゃん専用のチップが埋め込まれているらしい」
「なぜ俺の考えてることがわかった!?」
「そんなもの、表情を見れば一発だよ。ほら、さっさと出発する」
「……いってきます」
とはいえ、何をすればいいんだ?聞き込み?でも街を行く善良な一般市民があれ以上の情報を知っているわけがないし……。
とりあえず、奏音ちゃんの両親が経営する会社に行ってみよう!何かパンフレットとかもあるかもしれないし。
「えっと、会社は、どこ?とりあえず街なかに行けばあるだろ」
電車に乗る。このあたりで一番街なかっぽいところに来た。駅の案内掲示板を見る。奏音ちゃんの両親が経営する会社名は……ない。ない。ない!?
「なああああああああああああいいいいいい!?」
思わず叫んでしまう。周りの人に白い目で見られた。恥ずかしい。
『コウにも「恥ずかしい」っていう感情があったんだね』
と、感心したように言う脳内深鈴。俺をなんだと思ってるんだ。
どうやら、奏音ちゃんの両親が経営する会社は街なかにはないようだ。今度はあてずっぽうで探しに行くのではなく、ちゃんと調べてから行動することにする。そう計画性は大事だ。
「えっと、会社は、市外の、田園地帯にあるらしい!」
電車賃がバカにならないけど、お給料出たら戻ってくるから大丈夫だろう。
ん?あれ?お給料は全額、借金返済に使われるんだっけ?
「おう、のおおおおおおおおおお!(OH,NO)」
ということで、最安値の電車を探し、乗った。
最寄り駅の一駅前から降りて、一駅分でも電車賃を浮かせるんだ!
そう決心しながら。
だが現実はそんなにも甘くなかった。俺は乗り物酔いにかかりやすいタイプだったのを忘れていたのだ。吐き気におそわれ、トイレにこもっている間に、降りるはずだった、最寄り駅からひとつ前の駅を通り過ぎ、さらに最寄り駅も通り過ぎていたのだ。
「おう、のおおおおおおおおおお!(OH,NO)」
ということで、半泣きになりながら、田園地帯を歩いた。
見渡す限り、田んぼ、田んぼ、家、田んぼ、田んぼ、田んぼである。その中に、明らかに異質なビルを見つけた。目をこらすと、奏音ちゃんの両親が経営する会社名が書かれていた。
「ひゃっほう!!!!」
叫び、走り出す。だが、俺は気づいていない。ビルは低層ビルだが、そもそもの大きさがとても大きいこと、そして、田園地帯は広いことに。
「ぜえぜえはあはあ。全ッ然着かないじゃん!何なの!?マラソンマシーンの上を走ってるの俺!?」
『ちなみに説明しておくと、マラソンマシーンとはランニングマシーンのこと。やっぱりコウは国語力が足りないね』
とあざ笑う脳内深鈴。むかつく。
それから歩いて、歩いて、たまに走って、歩いて、歩いて、そろそろおやつの時間だとお腹が知らせてきたころ、ようやくビルにたどり着いた。
「疲れた!でも建物だ!中はきっと快適!」
そう意気込んで入ろうとする。大きな壁に思いっきりぶち当たる。
「なんで!?なんでなの!?」
本来、自動ドアとしての役割を果たすはずだったガラスの壁には。
なんとなんと。
『本日会社創立記念日につき、休み』の紙が貼られていた。
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