第8章:結末

 麗子の意識が再び浮上したとき、彼女の周りには二つの異なる世界が同時に広がっていた。一方は紫乃とともにある冥府の彼方、もう一方は現世の病院のベッドだった。麗子はまるで二つの世界を同時に見ているかのような不思議な感覚に包まれていた。


 冥府の彼方は、眩い光に満ちた幻想的な空間だった。無限に広がる虹色の光の粒子が、ゆっくりと舞い踊っている。その中心に紫乃の姿が浮かび上がる。紫乃は麗子に向かって優しく微笑み、手を差し伸べていた。


「麗子、ここで私と一緒に……」


 紫乃の声は、風のように優しく麗子の耳に届く。


 一方、病院のベッドでは、葵が麗子の手を握り締めていた。窓から差し込む朝日が、麗子の頬を優しく照らしている。葵の目には涙が光っていた。


「麗子、お願い。目を覚まして……」


 葵の声には、切実な願いが込められていた。


 麗子は、両方の世界を同時に感じながら、自分の内なる声に耳を傾けた。紫乃との永遠の安らぎか、それとも葵との新たな人生か。どちらを選んでも、それは麗子自身の選択であり、どちらも正解なのだと麗子は悟った。


 麗子はゆっくりと目を閉じ、深く息を吐いた。その瞬間、彼女の心に深い平安が訪れた。これまでの旅で得た全ての経験、全ての出会い、そして全ての悟りが、一つの大きな流れとなって麗子の中を巡っていく。


 目を開けた麗子の瞳には、強い意志と深い慈愛が宿っていた。彼女は微笑み、そっと唇を開いた。


「私は……」


 麗子の言葉が、両方の世界に響き渡る。しかし、その言葉の内容は明かされない。ただ、麗子の表情には、深い悟りと新たな決意が浮かんでいた。


 紫乃の世界では、光の粒子が激しく舞い上がり、紫乃の姿を包み込んでいく。


「よく頑張ったわね、麗子。どんな選択をしても、あなたは素晴らしいわ」


 紫乃の声が、遠くなっていく。


 病院のベッドでは、葵が麗子の手の動きを感じ取り、息を呑む。


「麗子……?」


 葵の声には、希望と不安が入り混じっていた。


 どちらの世界が真実なのか、それとも両方が真実なのか。それは誰にもわからない。ただ、麗子の表情には、深い悟りと共に、新たな冒険への期待が垣間見えていた。


 物語は、この二つの可能性を示唆して幕を閉じる。しかし、どちらの結末であっても、麗子が深い悟りを得て、新たな一歩を踏み出すことは確かだった。


 最後の光が麗子を包み込む。それは終わりではなく、新たな始まりの輝きだった。麗子の姿は、ゆっくりとその光の中に溶けていく。残されたのは、生と死、現実と幻想、過去と未来が交錯する、永遠の一瞬だった。


 物語は、人生における選択の重要性と自己発見の旅を象徴的に描いて終わる。しかし、それは同時に、新たな物語の始まりでもあった。麗子の旅は、ここからまた新たな次元へと続いていくのだろう。


 そして、読者の心の中で、麗子の物語はさらに広がり、深まっていく。それぞれの読者が、自分自身の人生と重ね合わせながら、この物語の真の意味を見出していくのだ。


(了)

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【百合小説】冥界の恋人―霧の彼方から響く声― 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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