第15話 ゲームマスター

「ふぅん……そういうことしちゃうんだ」


 ……なぜ。


 俺は各プレイヤーのステータスを確認する。全員正常。そしておかっぱの通信は切ってある。それなのになぜおかっぱが通信に出たんだ? このマイクは、絹村のものか。


 絹村のバイタルも正常だが、声は聞こえない。まさかとは思うが、おかっぱに懐柔されたのか? そんなはずはない。ドアには施錠して、絹村が交渉に折れる要素なんかないはずだ。


 そもそも。


 おかっぱ以外のプレイヤーには3つの選択肢がある。


 一つは普通にゲームを進行して生き延びること。


 もう一つは全員で協力しておかっぱと対決すること。


 そして最後の一つはシェルターに施錠してタイムリミットまでひきこもることだ。


 用意されている武器では鋼鉄製の扉は破壊できない。どうやって言いくるめたら、絹村が自らドアを開けるというのか。


 震える手でマウスをクリックして、絹村の退避しているはずのシェルターのモニターを映し出すと、そこには目を覆いたくなるような惨状が映し出された。


 2畳ほどの小さなシェルターは血で染まり、その血の海の中でおぼれている、首と体が泣き別れになった絹村の死体。そのすぐそばで、ニヤニヤと笑いながらおかっぱが俺と通信をしている。


 なぜ? 何が起こった?


 ステータスを確認すると、今も絹村のバイタルは正常値を指している。首を切断されて生きているはずがないのに。いや、それ以前にだ。


 奴はどうやって扉を破壊して中に入ったんだ? マシンガンを使っても、あの扉は簡単には……少なくとも他のプレイヤーと俺が通信していた10数分ほどでは破壊できないはず。やはり何か話術を駆使して中に侵入したのか?


「ドアは頑丈でしたけど、手りゅう弾を使って蝶番の方を破壊したら簡単に中に入れましたよ?」


 おかっぱはモニターの方を見つめながら話しかけてくる。


 しまった。これは俺の落ち度だ。ドアの強度には留意していたにもかかわらず、周辺部品の強度にまでは気を払っていなかった。まさかこのボンクラに知恵比べで敗北するなんて。驕り高ぶった俺の隙をついてきたのか。


 しかし、何故絹村の通信にあの女が出る? 首輪を奪ったのか? しかしあれは無理に外そうと強い張力がかかると爆発する仕組みだし……首輪?


 おかっぱは、何故絹村の首を切断したのか?


 確かに頸椎の間をうまく切断すればできないことはないが、しかしそれでも女の力では大変な重労働のはず。なぜわざわざそんなことを?


 いや、違う。絹村の首輪を外すために、首を切断したのだ。そしてこちらの動きを傍受していた。


 通信を切ってさえいなければ、彼女の動きにも気づけたのに、俺のミスで……いや、俺のミスか? 違う。ハメられたんだ。俺が通信を切ったのは、おかっぱと絹村の声があまりにも無意味でうるさかったからだ。もしあれが、通信を切らせるためにわざと大声で無意味な言葉を発していたとしたら?


 それもモニターをつけっぱなしにしていれば気づけたかもしれないが、仮におかっぱの動きがこちらにバレていたとしても何の問題もない。彼女はルール違反を犯しているわけでも何でもないからな。


 バレてもダメージはなく、バレなければこちらの情報が探れる。そんなノーリスクの賭けに出ただけなのか。そして賭けに勝利した。


「さて、ネタばらしもしたし、これはもういらないですね」


 そう言っておかっぱはズボンの裾をめくると、足にはめていた絹村の首輪を外した。絹村が死んでいるにもかかわらず彼のバイタルが正常を示していた理由はこれか。


 抜け目ない。そして、無駄になるかもしれないと思っていても、やれることは全てやる。間違いなく彼女は『強者』だ。なんでこんな奴が今まで燻っていたのか。


「でも残念だなあ。公平、公正のはずのゲームマスターが、まさか一方のプレイヤーに肩入れして、いたいけな女子高生を殺そうとするだなんて……」


『ま、待て。誤解だ。贔屓をするつもりはなかったんだ。落ち着け』


 もしかしたら、俺も、この女の前では『狩られる側』なのかもしれない。


『ゲームはまだ続行中だ。賞金が欲しくないのか?』


「私はね」


 おかっぱは笑顔をモニターに向ける。


「他のプレイヤーは全員殺してチップを奪うつもりですよ」


 これは、ゲームを続行する意思表示として受け取っていいのだろうか。当初の予定通りゲームを進めるべきだろうか。


「でもね? 『もう一人』殺せばもっと金が手に入りそうな感じなんで、迷わずそうします」


『“もう一人”とは……』


「お前だよ、ゲームマスター」


 そう言って、牧村香はハンドガンでカメラのレンズを打ち抜いた。


 ぶつりとモニターの画面が暗転し、静寂が訪れる。


 十分か、二十分か……いや、おそらくはほんの一分余りだっただろう。俺は目をつぶって、考え事を……いや、覚悟を決めていた。


『菊川、木間このま、田中。今から俺もゲームに参加する。全員の力を合わせて、あの悪魔を倒すぞ』


 大きく息を吸い込んだ。


『あんな命の大切さの理解できない悪魔なんかに、俺達は負けない!!』

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逆デスゲーム @geckodoh

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