第21話 しゃあねぇ、付き合ってやるよ
寝室から眠そうな顔でやってきたおやっさんと、寝起きが悪い兄にブツブツと文句を言いながら呆れ顔で戻ってきたミィナ。
俺はそんな二人と一緒に昼飯を食べていた。
「それにしても、よく一人で戻ってこれたな」
おやっさんが硬めのパンを千切りながら俺を見て言った。
そんなに珍しい事なのか?
「二回歩いただけで道を覚えるとか、なかなかできないぞ」
「そんなに凄い事か?」
と声に出して言うが、当然伝わるわけもなく。
「不思議そうな顔をしているな。もしかしたら外国のにいちゃんにとっては、普通の事なのか? そうだとすると、外国の人たちはかなり凄いな」
驚いたように言いながらシチューにパンをつけてから口に運ぶおやっさん。
手が自動的に動いてるんじゃないかと思うくらい、俺の方をしっかり見ながらその作業を繰り返している。
慣れすぎじゃね?
ミィナも同じように同じ動作を繰り返しながらパンを口に運んでいる。
さすが兄妹だわ。
◆ ◆ ◆
アデルと言う名の老人に会った。
そう伝えたいのだが、当然無理な相談だ。
なにしろ俺が二人と意思疎通できるのは、あくまでも質問をしてもらうところがスタート地点なのだから。
俺はどうしたものかと思案しながら食事をする。
二人は無言で食事をする。
…ダメだ、無理だこれ。
とりあえず、二人にアデル老について伝える事は諦めた。もはや伝える事は無理と割り切って、二人をアデル老の居る場所まで連れて行って会わせよう。
それがいちばん早い気がする。
百聞は一見にしかずとも言うし。
食事がひと段落したのを見計らい、俺は二人に親指で外へ行こうとジェスチャーした。
「ん? なんだ?」
「えっと…外に行きたいんじゃない?」
俺は笑顔で頷く。
「ああ、帰ってこれるの分かったし、行ってきて良いぞ」
いやそうじゃ無い。
俺は首を横に張った。
「ん? 違うのか?」
俺はおやっさんの腕を掴んでから、再び親指で外へ行こうとジェスチャーした。
「一緒に行こうってことかしら?」
俺はミィナに笑顔で頷き返した。
「なんだ? まぁ別に良いが、夕方からまた夜勤だからそんなにのんびりはできないぞ?」
おやっさんのその言葉にも、俺は頷き返す。
「しゃあねぇ、付き合ってやるよ」
それから俺はミィナの手を取って、同じように親指で外へ行こうジェスチャーをした。
「え、私も?」
「どうやらそうらしいな。まぁ久しぶりに一緒に買い物でも行くか、ミィナ」
「そうねぇ。まぁ、いっか」
ミィナは苦笑しつつも、なんだか嬉しそうだった。
◆ ◆ ◆
街中に出ると、あちらこちらで挨拶された。
おやっさんが。
俺は当然、顔見知りが居る訳もなく。
ミィナもそれなりに挨拶されていたが、おやっさんほどではなかった。
どうやらおやっさんはかなり顔が広いようだ。
皆から「守衛さん」と呼ばれている。
その事からも、おやっさんがこの町の門番として知れ渡っている事が分かる。
だがどうも気になる。
町の入り口にいたのは、おやっさんだけじゃ無い。
それに、昼間は他の人が居るだろうし。
それなのになぜ、おやっさんは守衛さんと呼ばれているのだろうか。
その質問をぶつけたいが、残念ながら言葉は通じない。
この疑問は、何かしらこの言語問題が解決しない限りは解けない難問として俺の中に残りそうだ。
俺は二人を先導して街中を歩いた。
向かう先は、俺が商人の霊から聞いた薬屋アデルがあるとされた場所付近の、アデル老と出会った場所だ。
二人とも道ゆく人々に挨拶しながら俺に着いてきてくれた。
街の中心にある噴水広場。
その北側にある鍛冶屋街。
その中の旧商店街らしき装飾品店が並ぶ通り。
その中のひとつ、そこにアデル老の家がある。
俺はそこまで、二人を確実に導いた。
「ん? ここは?」
何の看板もなく、普通の一軒家に見えるだろう。
もしかしたら本当に単なる一軒家かもしれない。
俺も場所は覚えてたけど、家の中に入った訳では無い。
この家の前にある小さな庭で、爺さんが酒を煽っていただけなのだ。
と、今になって不安が鎌首をもたげる。
ここ、本当に爺さんの家なのか?
アデル老に確かめた訳では無いのだ。
もしこの家が何の関係もなかったら…どうしよう。
言い訳を考えたところで俺の言葉は通じないからもはやなるようにしかならない訳だが。
うん。もう行くしか無いな。
俺は意を決してその家のドアを叩いた。
初期装備が風呂なんですけど 龍宮真一 @Ryuuguu
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★7 エッセイ・ノンフィクション 連載中 97話
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