何にも恐怖を感じることのない男は、ある日怪しげな老婆に出会う。「本当に怖い世界を覗いてみたいなら、そこのゲートをくぐってみやれ」。さしたる期待もなくゲートをくぐった男を待ち構えていた世界とは?
恐怖というのは強い感情で、感動等とは別の方向に人の心を揺さぶります。
極道に生きてきた男は、今まで何度も強い緊張状態に直面してきたと思いますので、シャバでそれを上回る興奮を得るのは難しいでしょう。また、投げやりな気持ちで生きている男は、死ぬこともそれほど怖いと思っていません。
でも、失ってから大事なものに気づく、とはよく言ったものです。「本当に怖い世界」には一切の刺激がありません。いいものも悪いものも、強力なものもささやかなものも。
人は知らず知らず、世界に心を動かされ続けているのでしょう。その相互作用が途切れたら、きっと心は平板化していってしまいます。
やるせない読後感が好きな作品でした!