女装で食べ放題
フェアリーガーデンで一緒に働いていた月さんの正体が、実は月さんのお兄さんだと判明してから数日がたった。
最初は少しギクシャクしてしまうこともあったが、それもなくなり、今では太陽さんと遊ぶ中になっていた。
そんなある日、休日に太陽さんからメッセージが飛んできた。
『今日一緒に夜飯食べに行かない?』
『いいよ。何時から?』
『フェアリーガーデンの最寄り駅に七時に来てもらっていい?それと、女装して来てね』
『なんで女装!??』
ご飯を食うだけなのに、なぜ女装をしなければならないんだ!??
『いいから、いいから』
深く追求しても教えてもらえそうにないので、おとなしく出かけることにする。
待ち合わせ場所に到着すると、すでに月さんそっくりに女装した太陽さんがいた。
「お待たせ」
「大丈夫です。いま来たところですから」
「いやいや、男同士でそのセリフは違うだろ」
「確かにそうですね」
太陽さんは「テヘペロ☆」と舌を出して笑う。
その仕草がめちゃくちゃ可愛い、男とは思えないくらいに。
……いや、こっちも完璧に女装してるから可愛さに関しては大差ないけど。
「それで、今日はどこでご飯を食べるの? 女装指定があったってことは、女性限定のお店とか?」
俺が問いかけると、太陽さんはニヤリと笑う。
「それは、ついてからのお楽しみです!」
「……あのさ、もうちょい砕けた喋り方できない? なんか妙に落ち着かないんだけど」
太陽さんが清楚な女の子みたいに喋り続けるもんだから、男と分かっていても心がざわついてしょうがない。
うーん、俺はノーマルのはずだが。
「すみません、つい体に染みついてしまって、かれこれ半年くらい女装しているものですから」
「うーん、俺もそうならないように気を付けないと」
まだ、女装し始めて一か月ちょっとだけど、化粧品や女の子に人気の店にも詳しくなりつつある。
これ以上、女装が体に染みつかないように注意しなくては。
歩くこと、数分で目的の店に着いた。
焼肉チェーン店のようだ。
ここは、家族で行ったこともある店で、女性限定だったり、ドレスコードなどはなかったはずだ。
とはいえ...
「うーん、焼肉か」
「だめでした?」
やや含みを込めた発言に、太陽さんがキョトンと首をかしげる。
「いや、給料日前だから金があまりないんだよね」
そう、フェアリーガーデンでは、そこそこの収入は得ているけど、バイト代の半分は大学の資金にしなさいと両親から貯金させられているのだ。
ウマ嫁のゲーム課金や、欲しいグッズやゲームもどんどん出てくるので、月末は金欠だ。
「お金の心配はありませんよ!」
「えっ?でも、ここ普通に高校生のサイフには痛くない?」
ランチメニューなら、比較的安く済むとは思うが、普通に食事をしたら5000円近くはいく。
給料日前にこの出費は痛い。
「大丈夫ですよ。ここ今、女性だけ食べ放題半額だから、1000円ちょっとで食べれますよ」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、それはマズいて」
「ふっ、凜くん。世の中にはこんな言葉がある。バレなきゃ犯罪じゃ...」
「余裕でアウトだわ!!!!」
この人まったく懲りてないわ。
つい最近、姉や自分に正体がバレてから懲りたと思ったけど、全然そんなことなかった。
「やれやれ、頭の硬い優等生はこれだから....そういうタイプが女の子に対して、自分は真面目なタイプだとアピールするんですよね。でも、それって、真面目以外に取り柄がないから、それしか誇るものがないっていう悲しいものなんですよ」
「全国の良識ある一般人に謝れ!!」
月さんもとい、太陽さんは正体がバレてから、結構アウトな発言が増えてきた気がする。
太陽さんはスッと真面目な顔をし、
「とはいえですよ、今の時代に女性だけ優遇なんてナンセンスだとは思いません?」
「えっまあ、確かに」
実際、ここの焼肉店は確か女性だけ優遇するなんて、男性差別だって炎上していた。
確かに、女性だけ半額なんて露骨なサービスされたら当然っちゃ当然なんだけど。
「それに、現代ではトランスジェンダーというものが受け入れられています。ここのお店は女性を食べ放題ですが、トランスジェンダーで自身の性自認が女性の方は対象ではありませんと、記載もありませんよ」
「それは屁理屈が過ぎるんじゃないかぁ?」
「うーん、仕方ありませんね。そしたら、妥協案でこうしましょう」
「まっまあ、それなら...」
月さんの妥協案を聞き、入店する。
「焼肉食べ放題2人分お願いします」
「かしこまりました」
店内を見渡すと、キャンペーンの影響か女性が多いようだ。
「こちら、食べ放題のメニューなります」
「はい、ありがとうございます」
店員さんが持ってきた伝票には、食べ放題女性との記載。
店員さんが去ったあと、
「それじゃあ、女性として扱われたことだし、ありがたくいただいちゃいましょう」
そういうと、太陽さんはウキウキで注文用のタブレットをいじる。
「うーん、まあ店側のミスならしょうがないよね」
そう、店員さんがこちらを女性扱いするなら、それに甘えよう。
万が一バレたとしてもそれは、確認しなかった店側のミスだ。うんしょうがない。
こうして、俺たち二人は格安で焼き肉を堪能し始めた。
女装ドレッシング ろく @hiro7821
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。女装ドレッシングの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます