第3話 よく分からない苛立ち。これは……

(あの人どうしてるかな)

 女性と再開して三日後。そんなことを考えながら夕暮れの道に自転車を走らせていると、目の前に人集りが出来ている。見ると人が倒れていて若い男性が心臓マッサージしていた。

(すごい状況だな)

 男性は手慣れた様子で救命を行っており、そのすぐ横になぜかあの女性がいてサポートしている。二人の息はぴったり合っていて倒れていた人は呼吸を取り戻し、すぐに救急車のサイレンの音が聞こえた。

「凄」

 呟いて二人を見つめる。

 救急隊員が対応し始めて、少し落ち着きを取り戻したのか彼女は一緒に救助に当たった男性を見つめている。その頬が心なしか赤く染まっているような気がした。

 ああ、そうか。その男性が彼女の失恋相手なんだ。

 そう分かったら何だか無性にいらいらしてきた。何だよ、救命救急って。かっこよすぎじゃん。しかも何、あの整った顔。絶対勝ち目ないじゃん。

(え、何で勝たなきゃいけないの、俺)

 自分でも良く分からない。

 でも自分でも理解できない苛立ちが体を支配している。

 救急車に同乗して去っていく男性をいつまでも見つめる彼女に益々腹立たしさが込み上げてきて、

「ねえおばさん」

 俺は呼び掛けていた。

 相手は弾かれたように振り返る。

「君、また私のことおばさんって言ったわね」

「うん、言いましたよ。あれですか、あなたの好きな男って」

「な、何言ってるの!」

 否定しても態度でばればれなんだよ。恋人がいてもやっぱり私はあなたが好きですって顔に書いてある。

「あー、俺頭痛いわ。俺のことも看てくださいよ」

「え、何?」

「だってこの間言ってましたよね。一ヶ月くらいして頭が痛くなることもあるって」

「あなた、頭はぶつけてないって言ってなかった?」

「どうだったかな」

「私を脅す気?」

「人聞き悪いこと言わないでくださいよ、おばさん」

 俺はあえておばさん呼びを貫いた。嫌われるかもしれないことは分かっていたが、止められなかった。

 その心の奥に

「今度こそあの人形取りなさいよね!取るまで帰さないから。おばさんって呼んだ罰よ!」

 という台詞を期待している自分がいることに俺はまだ気付いていない。

「俺のことも見てよ」

 本気で想うまで、そう日は掛からなかった。


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年上彼女のチートすぎる想い人 世芳らん @RAN2023

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