ママ友

日間田葉(ひまだ よう) 

・・・・・・

 私たち五人はある大学病院の産婦人科で知り合ったいわゆるママ友である。

 

 出産日が近かったので検診が一緒だったのと入院退院もほぼ同じだったので自然と仲良くなり子育て仲間として私の家に集まるようになった。


 うちのマンションが駅から近く便利だからというのと私が家に人を呼ぶのが苦にならない性格だということもある。


 最初はみんな気を遣って差し入れを途中で買って持ってきてくれていたが赤ちゃん連れで買い物をするのも大変だからお金を出し合って買い出しに行こうと私が提案した。

 

 一旦私の家に集まって二人が留守番をし三人が駅に隣接しているデパ地下に交代で買い出しにいくのだ。少しの間でもベビーカーを押さないで買い物ができる解放感が嬉しいというのは私だけではなかった。


 頻繁ではないがそんな集まりを始めて半年くらい経った頃だ。


 家にあったものがなくなっていることに気が付いた。無造作に置いてあったアクセサリーや雑貨がなくなっている。


 みんなが帰った後に夕食の買い物にいこうと財布を見ると千円札が何枚か減っていたこともあった。


 アクセサリーはそれほど高価なものでもなかったしお札は数え間違えかもしれない。気のせいかもしれないと誰にも話さずにいたがそうとも言っていられない事がおきた。


 ある日、ケイ君ママが財布がないと自分のバッグの中を探しながら困ったように言った。ケイ君ママはおっとりした人だったので他のママ友からは家に忘れてきたんじゃないのと笑って言われていた。


  ケイ君ママは車で来ているのでお財布がなくても気が付かないのはありえたのでお金は今度でいいからと私が言うと借りておくねと言ってその場はおさまった。


 ただ私はひそかにAさんを疑っていた。


 Aさんは買い出しには絶対に行かずにいつも家に残って留守番をしたがる。


 子どもが好きなのでずっと見ていたい世話をしていたいと理由は前向きだが言っている事とやっていることは違っていた。

 

 Aさんは本当に見ているだけで何もしない。動き回る子どもは他のママが付きっきりでAさんはダイニングキッチンで一人座っているというのが誰からの話しでも一致している。

 疑いたくなっても仕方がないではないか。だからと言ってそれをケイ君ママや他のママ友にこの場でいう訳にはいかなかった。


 ケイ君ママはお騒がせしてごめんねと言ってみんなもさして気にせずその日も同じように過ごした。いつものように買い出しに行きお昼を食べ他愛もないおしゃべりをしていつものように解散をする。


 今日も楽しかったなと子どもと二人になったリビングで一休みしようと私が椅子に座った途端、インターフォンが鳴った。みんなが帰った後を見計らってAさんが戻ってきたのだ。


「マンションのエントランスにケイ君ママのお財布が落ちていたわ」


 マンションのエントランスに落ちていたですって。そんなところに落ちていたら買い出しに行った時に気が付いていたはずだ。

 もしくは先に誰かに拾われて運がよければ管理人さんか警察に預けらるだろうし、運が悪ければ持っていかれてしまうだろう。


 私はAさんの何事もなかったような顔にぞっとしたがケイ君ママにすぐに連絡をして戻ってきてもらった。


 確かにそれはケイ君ママの財布だったが中身は全て抜かれていたと言っていた。


 それ以来、私たちは集まるのを止めたのだがAさんは行くところがなくなって寂しいと度々私に電話をしてくるようになった。正直鬱陶しかったのだが余りに言うのでつい遊びにきていいよと返事をしてしまった。


 翌日のことだ。


 早朝の五時にインターフォンが鳴った。


 こんな朝早くから一体何事だとモニターを見たら幼子を抱えたAさんが立っている。


 驚いた私はAさんにどうしたのと聞くと遊びに来たと言うのだ。


 いやいやおかしいでしょ。今は朝の五時で私は家族のお弁当や朝食を用意しているのだ。もちろん主人もいてしかもまだ寝ている。こんな時間に来るのは非常識だから帰ってくれときつく断った。


 するとマンションの入り口のインターフォンの前でAさんが騒ぎ出したので私はAさんの自宅に電話をしてAさんのご主人に状況を説明した。


 驚いたご主人は車で迎えにきてAさんを引きずるようにして帰っていったが私に対して謝罪はいっさいなかった。


 それ以降誰もAさんに会っていない。



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ママ友 日間田葉(ひまだ よう)  @himadayo

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