第3話 時は移ろい

二人の衛兵に両脇を固められ、タモツは重々しい足で石畳を踏みしめながら城壁内の詰め所へと連行された。 入口をくぐると、冷たい石壁に囲まれた空間が広がって、簡素な木の机と椅子が孤独に佇んでいた。


「それで?城下町近くで奇行に走る身分証のない住所不定の24歳?」。


静寂の中ペンで書き殴る音だけが詰め所内を反響する。


「───怪しいよな?」。

「怪しいですね」。


亜古神タモツは食い気味に肯定する。


「不審者に関する通報が3件入っている。一つは地べたに寝転がりながら泣きじゃくる変な格好をした不審者───お前で間違いないか?」。


「間違いないですね」。


「もう一つは、噴水の水をガブ飲みした後、叫び散らかす等の奇行に走る不審者───お前で間違いないか?」


「間違いないです」。


「最後が、ケツにロングソードをぶっ挿しながら踊る露出狂の変態───お前で間違いないな?」。


「間違いですね、とんでもねぇな異世界の変態」。


「………ほんとに?」。


「勘弁しろよ」。


「ヒップホップしてない?」。


「穴違いだな、界隈に怒られろ」。


始末書を書き殴るペンの音が鳴り止むと、二人の衛兵が同時にため息を吐いた。


「ハズレかぁぁぁ……」。


─────────────────────

時は移ろい───冬を迎える。


いや───移ろい過ぎやろッ!!

まだ3話ぞ、たった3話で季節変わってんだけど。中身なさ過ぎやろ、紅ズワイガニか。



亜古神タモツは、異界での生活にすっかり馴染んでいた。

衛兵2人がおっていた変態、別名『剣の踊子ブレイドダンサー』は最近巷を騒がせてる変態で、どっかの貴族令嬢が被害にあったらしい。

莫大な報償が出るとのことで、金にならない不審者おれは釈放された。職務放棄も良いところだ。

誤解が解け、現在は衛兵の二人からの紹介で城壁の増設業に勤しんでいる。


毎朝、まだ薄暗いうちに起きて、城壁の増設現場に向かう。そこでは、古びた石や木材を運びながら、でかい仲間たちと一緒に汗を垂れ流す毎日。体はもう慣れたもんで、筋肉もだいぶついてきた。


「ファァ……ヘブッッツアァ」。


大あくびに咽返り同時にくしゃみが出る。冬場の風が寒い、朝は特に体の芯まで凍てつくようだ。 


早朝、仕事仲間が当番制で薪番をする、そして今日は俺の番だ。まだ朝日も登りきらない早朝ドラム缶に薪をくべ暖を取る。


昨日の晩のチーズとパサパサのライ麦パンとを口に詰め込み温い苦汁で流し込む。


日々の労働にてうっ血した右掌に白息を吐く。赤く腫れた鼻を啜った。


───甘ったるいココアが飲みたい。


心の底からそう思った。


「ヒック、おぉ速ぇえじゃねぇかタモツ」。


千鳥足でのそりのそりと暖に手をかざす。


「おい、ドミノお前また朝まで飲んでたのかよ」。


「いやぁ飲んでない、飲んでない」。

そう言って右手に抱えた一升瓶をゴクリと飲み干す。


「酒クセぇよまたおやっさんにキレられんぞ」。


「この程度の量じゃ、体も暖まんねぇよヒック」。


デロデロによった姿には説得力の欠片も無かった。


「この冬場にタンクトップとか修造過ぎるだろ」。


安物とはいえ厚手のコートを二枚も来ているのにこの寒さだ、タンクトップはその比じゃないだろう。


「へへ、ズビッ、あ、チーズそれ俺にも頂戴」。


「コーヒーは?」


「ロックで」。


「割らねぇよ」。


「───おう、エンリとタモツ、おはようさん」。


次々と集まる仲間達、震えながらのそのそとドラム缶に手を翳すと皆アホの子の様にだらし無く声を上げた。


「あーさぶ」。


日が昇るまでしょうもない話で談笑を交わす。

身寄りの無い奴や路頭に迷っていた奴らがおやっさんの好意で働かせてもらっている。


宿舎は狭い一室を五人で雑魚寝、一生懸命働いた日銭をその晩の酒で使い潰すだけの毎日、そんな、どうしようもない生活を俺は気に入っていた。

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