第8話 夕方の教室
(放課後特有の静けさの中に、部活動の音が廊下に響く)
(シャープペンシルの文字を書く音)
(戸が開く音)
(戸を閉める音)
「どうしたの?まだいたんだ」
「私?私は実行委員で残ってたの」
「そうそう、文化祭文化祭」
(椅子に座る音)
「
「えっ?何のプリント?見せて見せて」
(椅子から立つ音)
「あー、これかー」
(椅子に座る音)
「進路調査票出してなくて残ってたわけね」
「私は進学希望とだけ書いたよ」
「詳しく書かなかったのはね、こだわりなくて」
「頭は賢くないけど、なんか、ピンとくる大学がなくてね」
「キャンパスライフに夢を持つより、学びたい事を突き詰めたくて、だから考えてるの」
本当に悩んではいる。どうしようって焦ってもいる。
国立を軸に、滑り止めで私立という作戦でいこうかって先生は面談で言っていた。
そうしようかなってグラついている。
ん?なんか、視線を感じるような…。
うぎゃ、眩しい。
「尊敬の眼差しを向けないで、眩しいよ!」
優柔不断な私を尊敬しなくていいのに。
舘畑君はどうするんだろう。聞いてみよう。
「舘畑君も進学?」
(ペラッとプリントを見せる音)
「就職も考えてんだ!凄い!」
「てことは、進学を軸に、就職もってこと?」
(舘畑、頷く)
「なんか希望の職業とかあるの?」
「食に関係しているお仕事、いいね」
食に関係するお仕事なら…あっ。
「短大とか専門学校は?」
あら、舘畑君の表情がみるみる明るくなる。
頭になかったな、短大と専門学校。
「うんうん、そうだよ!短期間でしっかり勉強出来て資格取得も出来るってなれば!」
彼なら一生懸命だから、学校の勉強の他に国家資格の勉強だって出来るはずだから。
私は知ってるよ、頑張り屋さんな一面あるってとこ。
(プリントの文字を消した後にカスを払う音)
(シャープペンシルで文字を書く音)
「力になれたかな?」
なんとなく気になったから聞いちゃった。
「良かった、力になれて」
嬉しい、本当に、良かった。
「何かあったら、また相談してね」
「ありがとう、じゃあ私も困ったら相談するよ」
こうやって距離が縮まるんだなあ。
幸せだなあ。
(鞄を持つ音)
「じゃあまたね」
(椅子から立つ音)
(歩く音)
(戸を開ける音)
(戸を閉める音)
高校卒業しても一緒ならって思ったけど、別々になりそうだな。
心がちくちくするけど、忘れよう。
「どうしたの?」から始まる君との時間 奏流こころ @anmitu725
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