第27話

自分の居た世界に着いた。ここは通っていた高校の屋上か。

 白黒の色以外が付いた世界。動く人々や動物。どこまでも続くのではないかと思う青空。何もかもが久しぶりだ。今日は何曜日だろう。学生の声が殆どしない。土曜か日曜だな。

 俺は屋上から飛び降りて、グラウンドに着地した。もう人間じゃないからどんな高さから落ちても怪我はしない。

 学校から出て、クレープ屋がある公園に向かった。

 クレープを食べる事は出来ないけど匂いを嗅ぐ事は出来る。それにもしかしたら朱里が要るかもしれない。

 公園の前に着いた。

 クレープ屋のキッチンカーが見えた。キッチンカーの前には10代後半ぐらいの女性達が何人も居る。

 俺はキッチンカーの傍に行く。キッチンカーでは男性店員がクレープを作っていた。

 ごく当たり前の日常。それが目の前に存在している。

 俺はこの光景を守る事が出来たんだ。胸の奥が熱くなった。

 朱里と一緒にクレープを食べたベンチの方に視線を向けた。

「……朱里」

 ベンチには朱里が座って居た。いや、朱里に似た人かもしれない。

 俺は確かめる為に駆け足でベンチに向かう。

 ……やっぱり朱里だ。正真正銘朱里だ。ずっと、ずっと会いたかった。

「あーこの人誰なんだろう」

 朱里は一枚の写真を見て、言った。

 俺はその写真が気になり、朱里に背後に周った。

 噓だろ。何でこの写真が残ってるんだ。

 朱里が持っている写真には俺が写っていた。クレープ屋の男性店員に撮って貰った写真だ。

「うーん。覚え出せない。クレープ屋のおじさんも覚えてないし。誰なの、貴方は?」

 朱里は写真に呟いている。

「俺だよ。門田絽充だよ」と言いたい。でも、俺の言葉は朱里には届かない。

「でも、きっと大事な人なんだ。だって、知らない人と映ってる写真を捨てられないんだもん。

あー会ってみたいなこの人に」

 俺は朱里を抱き締めた。朱里は何も感じない。

「……愛してる。朱里」

 届く事のない言葉。でも、言わずにはいれなかった。

「なんだろう。この温かい風」

 朱里が持っている写真には雫が落ちた。

 俺の涙ではない。この世界で俺の存在は認知されないはずだから。それじゃ、朱里の涙なのか。それは分からない。他の何かかもしれない。それに確かめない方がいい。確かめるなら少しでも長く朱里に触れていたい。

「ずっと、ずっと愛してるから」

 永遠に俺は君を愛する。永遠に君は気づかないだろう。でも、永遠に君と俺の赤い糸は繋がっている。……きっと、必ず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

被験世界630 APURO @roki0102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る