ヲタサー王と紙装甲 ~OMODARU~

 上空からヤヱガキを見おろし、中心に行けば行くほどに雲が深くなってゆくことに気づく。不意に、

「ヤクモの護りってなにさ?」

 クロは気になる単語についてウカノに問う。

「古参の神々、クシナ叔母さまたちを護るための結界ケッカイです」

 クシナ――この国の長官の奥さんだ。クロの記憶にあるのは、元気一杯の武闘派少女だ。

 あれから三百年が過ぎている。ウカノの言葉に、カクリヨの姿がクロの中で形を持つ。

「この城塞は、神々の御神徳が漏れ出さないようにするための防壁フタってことか…」

「キャパシティは、百年前からオーバーしていますけどね」

 ウカノは嘆息。その故はひとえに、

「お祭り、好き過ぎだろう?」

 それである。クロにとっては一昨日の出来事だが、あの『』は、確かに楽しかった。その時、クロは祭りの主催者の中にいたので、全体を楽しんではいない。それでも存分に楽しかった。

「ウカノは、まだお祭りに行ったことがありません」

 ここで、ウカノはポツリ。理由はなんとなく察しがつく。

「キャパオーバーしちゃうのね…御神徳が大幅に…」

「はい」

 しょんぼりと答えるウカノに苦笑をひとつ。

「大丈夫。智慧ちえが漏れるなら、外から押し返せばいい――俺に考えがある。だから、楽しみにしていてください。姪っ子殿?」

 腰にしがみついているクロには見えないが、

「クロぉ~、なの?」

 ウカノの肩にちょこんと座っているエベっさんには、彼女の喜色が眩しいほどに見えている。ギュッと襟にしがみつき、ウカノの髪でセーフティを確保。

「着いた先が天国だったら起こしてくれ」

 騎兵隊帽子キルゴアハット目深まぶかにかぶって、ハラを括るとハードボイルド。

「えっ、

 クロは肚を括れぬままに、ニゲジョーズは錐揉み飛行スクリュードライブ。そしてウカノは、

「ヒャッッハァ~ッ! 約束ですよ伯父御さまッ!」

 

「や、約束するからッ! ヒャッハーって女の子がつかっちゃダメなヤツだからぁ~ッ!」

 クロはギャン泣きだ。伸し掛かるGに脚が生れたての小鹿バンビ~ナ状態で機体から離れそうになっているのだからあたりまえだ。

「俺、されてないからッ! 生身だから。装甲ヌノノフクですからぁ~!」

 錐揉み飛行スクリュードライブは加速する。クロの悲鳴は終息する。白目を剥いて気を失ったのだ。


「ウカノさーん。いくら自分らでもね、かばえることと、庇え揉み消せないことがあるんスよ」

 ウカノは仁王立ちするアナムチの前で、ちょこんと正座し、反省ハンセー表明ひょ~めい

「さーせんッ!」

「謝ってもダメっスから。ルールっスから。はい、免許証出して」

 と、アナムチ、にべもない。

「目ぇ、つむれんのはまでッ! 錐揉み飛行スクリュードライブっス!」

 アナムチは、ウカノの涙目にも譲らない。

 音は聴こえる。視界も良好クリアーだ――は死んでいたが…。

 ここはヤヱガキの中心。イズモ。透明な筒状の幕に覆われた天空にも届きそうな超高層建築のロビー脇にあるヤソファイブの詰所である。

 ウカノは恐る恐る免許証をアナムチへと差し出し、それを受け取ったアナムチは免許証を一瞥し嘆息。

「あと2点で免停ッス。忖度ソンタクとかしないッスからね。みんなの安全護るの自分らの仕事ッスから」

 無情にも違反切符を切る。

 ペチペチと、誰かがクロの頬を叩く。眦はどことなくアナムチに似ている。知らない女性だ。

「見えるか? これは何本だ?」

のこと? それとものこと?」

 眼前でペンを振りながら、別の手で指を2本立てていることをクロは尋ねる。すると、

「ちぃッ」

 舌打ち。

「ヤカミ。彼がタカマノハラからの密航者か?」

 クロの問いはいて、ヤカミに問う。ヤカミ、アナムチはダッシュで、

「いっぁ~ッ!」

 強めのチョップを彼女の頭に叩き込む。

「「とかすんなやッ! 頼むから! お願いですから!」」

 ここでエベっさん。ぬいぐるみチョップを繰り出すが、あいにくの水分エネルギー切れだ。

「や、やるな貴様…所属と名前は?」

「ヤソシックスのスセリ」

 痛みから立ち直ったスセリは涙目で答え、

「総隊長を拝命したエベっさんと、総副官を拝命した――」

 ウカノがに紹介するのを手で制し、

「総副官を拝命したクロと申します。ビッグボアの懐柔には開発部隊の御助力が不可欠だ。さしあたってブリーフィングを開きたい。主だった者たちの召集をお願いしますスセリ。ヤソエイトは会場の設営を」

 ようやく立ち直ったクロは、全権委任状を翳し下知。

 当然、ここで、

「ポッと出のあんたに仕切られる理由はなによ?」

「ブリーフィングルームの設営せつえ~って自分らの仕事じゃないっしょ?」

「だいたい、あんたれんの? 見目麗しいがさぁ~?」

 反発と侮り。あまりのテンプレ展開にクロはニヤリ。ウカノとエベっさんを、

「まぁまぁ。ふたりともぉ~」

 満面の笑みで抑えてなだめ。クルリと振り返ろうとして、

「いよぉ~ゲン坊。楽しげなことやってんじゃねぇか?」

 届いた声と姿に転瞬に固まる。引き攣る。表情が。故は、

「ダルジイにコネバア…」

 そのふたりが居るからだ。矍鑠カクシャク獰猛どうもうな笑みを浮かべる小柄な老爺の名をコロク。転瞬に消えるや、クロの肝臓目掛けて、鋭く見えない肝臓突きリバーブロウ

大六天ビッグロックって呼べって言ったよなぁ~? えぇ?」

「背ぇ抜いたんだから、小六天ちっさロックじゃねぇか?」

 獰猛どうもうワラうクロは、それを辛うじて左手の掌に受け、

「クマノ小母オバちゃまって、言ったのよね? そうよねゲン坊?」

 かたやアイアンクローを繰り出す貴婦人の名をクマノ。神世七代ナナヨの二人がかりには、どうにもクロもなせない。

「そうです。小母オバちゃまの聞き間違えです。だから、。いま喝入カツイれとかそう言うだから」

 徐々に吊し上げられるクロは懇願。

「もうわらわ、次は赦しませんからね」

「背ぇばっかりでかくなりやがって。まぁ、研鑽を怠らなかったことは褒めてやる。これまで通りに大六天ビッグロック呼びでいいぜ」

 クマノはクロを解き放つ。解き放たれたクロの姿にふたりはホンの少しだけ鼻声。

「久しぶり。コロク小父オジさん。クマノ小母オバさん」

 こうして顕現した状態で会うのは初めてだ。互いに感極まるものがある。

「喝入れなんざ。おジョーりてぇやつら全員連れてきな。ハンデつけて相手してやらぁ」

 コロクは鼻汁をズビリ、

「ハンディはそうね。かしら」

 クマノもグスリ――たちまちクロの身体からだが重くなる。顔が引きるのを感ずる。話の流れからビッグネームふたりが喝入れを代行する流れじゃ、

「お嬢。も交ざんな。なぁ~に、こいつはぁ~」

「妾たちの最高傑作よ。みんなが束になっても勝てないわ。ね。?」

 ないらしい。思わずに、

「そんなわけねぇだろ? えっ、なの? 

 素。迂闊ウカツな口を呪ったところで、

わしらもいいたぁ」

「まぁうれしい。ゲン坊との組手は初めてね」

 もう遅い。ふたりの先達は矍鑠カクシャク獰猛ドウモウワラう。

タッする。これより長官代行の就任式を行う。各位オノオノ、得意な得物を持って大練兵場に集合。作戦コードはガンガンイコーゼ。繰り返す。作戦コードはガンガンイコーゼ」

「せめて無手ムテでッ! もしくはジジババはギャラリーで見学しててください。お願いしますッ!」

 クロの魂の叫びは、

伯父御オジゴさま。ウカノの得手は無手です」

 天使な笑顔に無効化キャンセルされ、ふたりの先達はパチンと指をひと鳴らし。

「お、おてやわらかに…」

 大練兵場の真ん中に、ヤソな神々に囲まれポツリとクロ。


 結果として、

「紙だね神だけに…」

 紙装甲だった。腹部を押えて両膝をつくヤチホコにエベっさんは嘆息。

「クマノの小母オバちゃま。とか言ってごめんなさい。ハンデ追加で」

 テンプレな反発は掌打ショーテイ一発で鎮まった。紙装甲かみそうこうだ。

「世代が進むほど、神から人に近づきます。それにしても――」

 ウカノも嘆息。

「俺、神の爪ツメを封じられてるからだよ。死ぬからね」

 クロは、ここぞとばかりにをウカノに貼りつける。

「「「いやいや、だろ?」」」

 反発なヤソ8は、テンプレな反論。

「相手を観察すれば、どこが悪いかなんてわかるだろう? 君は脂を摂りすぎだし、そこの君は――」

 推定のモノモチは、手にしたナイフをクロに向けて投げつけるが、

「暗いところで眼を酷使し過ぎだ」

 ナイフの柄を掴んだクロは、柄頭ツカガシラで頭のツボと指のツボを素早く突く。

「め、眼がぁ~。がぁ~!」

 モノモチは目を諸手で覆ってのた打ち回りムスカシャウト

「あとばかり摂りすぎだ」

 クロはモノモチの膝裏のツボを爪先で軽く突く。これでは、

「組手じゃなくて」

「診療だわね」

 ふたりの先達は呆れて

「んで君は…」

 残る反発者のイワノは、

「う、うわぁーッ!」

 目を瞑って、デタラメにウォーハンマーを振り回す。

無理な食事制限ダイエットは、血流を著しく低下させる。そうすりゃ肌荒れや…」

 デタラメなを、クロは器用に掻い潜り、

「……」

 イワノの耳もとで

「しっかり食べなさい」

 臍下せいかにあるツボを突き、

「ひゃんッ?」

 少しばかり艶かしいエロい悲鳴こえを漏らしたイワノの、膝裏のツボを爪先で軽く突く。

 イワノはゆっくりと膝をつき、

。言いたいことがあるなら

 クロはジト目を貼りつけてくるウカノに抗議コーギの声を張り上げる。

 またズシリと身体が重くなる。

「これって、俺の研鑽ケンサンにはならないんだよなぁ~」

 緩急カンキューを絶妙に変え、歩幅を小刻みに踏み変える歩法ほほうの名を禹歩ウホと言う。クロが踏んでいるのが、まさにそれだが、これを組手に加えることで相手は、

「な、なんかい」

 酔い。また、相手によっては、

「い、いつの間に?」

 視覚情報の認識を錯覚する。クロの体内では練られたが増幅し、

「ウカノも交ざっていいですよ」

 群がるヤソ隊を、次々にいでいく。全体的にまとまりがない。連携レンケーもない。

 時おりウカノの突きや蹴りが飛んでくるが、それらをクロは有効利用リサイクル

「ちょぉ、ウカノさん?」

「あ、ごめんヤカミ」

 往なした攻撃を有効利用する事で喝入れの時間を大幅に短縮することにクロは成功。が悪いのは、コロク、クマノの横槍だ。往なして有効利用すれば、

「ちょっとぉ~、あたると死ぬやつじゃん」

 それとなる。

「あらあら、アダナエは泣き言を聞いてくれるのかしら?」

「これ組手ですからね?」

「下のもんを護るのは上のもんツトめだぜ?」

 もっともタチが悪いのは、ふたりの連携だ。避ければ犠牲が出て、無手ムテで受ければ、

「いっぇ~ッ!」

 すごく痛い。

「クロ~、を忘れてない?」

 エベっさんは抗議コーギ

「エベっさん。草薙剣クサナギを盾に変型させて」

「ハイなッ! 背中こっちは任されたぜ!」

反撃これも任せたいけどね」

 もっとも、それは適わない。

「フッ、こっちはとっくに水分切タマギれだぜ」

 エベっさん、無駄にダンディーハードボイルド

 クロは踏み留まり練られた解放リリースし、

「ちぇ~。OK反撃こっちは任されたッ!」

 先達の攻撃に合わせて掌打ショーテイを打ち放つ。コロクとクマノは受けた衝撃に思わずニヤリ。

喝入かついれは、これくらいでいいんじゃない?」

「ゲン坊。ついでだから着任の挨拶あいさつしちまえ」

 死屍累々ししるいるいとしている大練兵場をめつけ軽く提案。

 この場で動ける者は、ウカノくらいだが、彼女もノーダメージではない。仕掛けたすべてが躱され、ムキになって仕掛けたので疲労困憊おつかれ気味ギミである。

 クロは嘆息。

長官代行だいこうを委任された――」

 少し躊躇ためらいがちに、

です」

 名乗る。両親から貰った名を。すぐに、

「ウツシを音読みするとゲンだから、七代セブンからはだなんて呼ばれてます」

 早口で有耶無耶うやむやに隠し、

「みなさんは、クロと呼んでください」

 改めて大練兵場に目を向けキャパオーバー。これだけの数の衆目に晒されたことは初めてだ。こんな時、

「聞けぇぃッ! 今日から貴様らを預かることになっただ。全体管理の面倒事メンドーは、そこのが、実行部隊の総隊長がエベっさんだ。なクロは総副官だ。好きなお菓子はチョコのタケノコだ。貴様らに許された返事はイエスかイエスだ。言葉の始めと終いにエベっさんをつけることを怠るな――」

 頼りになるのが。すかさずに

 たちまち大練兵場に、

「「「「イエスッ! エベっさんッ! イエスッ!」」」」

 が、木霊する。

「いいコンビじゃねぇか」

 コロクは矍鑠かくしゃくに笑い、

「そうね。エベっさん、くれないかしら…」

 たちまちヤソを掌握すニギるエベっさんに視線を向けて不敵に

「おいおい、まだ盗ってやるなよ」

「あら、カクリヨの長官にしたいだけよ。し。し」

 ウサギなぬいぐるみは、それは愛くるしい。クマノがするのも無理はない。コロクは嘆息。

「あげません。です」

 組手で敗れて、ご機嫌斜めなウカノは釘をさす。

「おじょうもこない? といっしょにさ」

 クマノは誘惑、ウカノはしばしも思考し、

「その話もっと詳しく」

 誘いに乗る。

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スサノワ ~SHIROUSAGI~ いやさかキッキ @iyasakakikki

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