第6話

オモイバト事務所前。

 今回の仕事はなぜか普段と違い疲れた。それは知っている人のお子さんだったからか。それとも、ただいつもより動いたのか。きっと、前者だろう。仕事に対する気持ちが段違いで強かった。

 俺はオモイバト事務所のドアを開けて、中に入る。

 明衣はブラウンのソファに座っている。

「遅かったじゃない」

「うるせぇ。色々とあったんだよ」

「……まぁ、いいけどね」

「お、おう」

 普段ならもう少し突っかかってくるはずなのにしてこない。ちょっと、気を遣ってくれているのかもしれない。

「……帰って来たな。お疲れ」

 ビジネスデスクの前の椅子に腰掛けている葛葉さんが優しく言った。

「ありがとうございます。仕事終了です」

「あぁ。よくやった。また頼んだぞ」

「……はい」

「少し大人になったな」

 葛葉さんが珍しく褒めてくれた。一年に一度あるかないかぐらいだぞ。

「そうですか?」

「あぁ、顔つきが違う」

「それは嬉しいです」

 単純に嬉しい。そして、仕事を通じて成長したんだと実感した。

「えー違うと思いますけど」

 明衣は癇に障る言い方で言った。

 聞き流そう。自分にプラスにならないことは聞かない方がいい。


 翌日。

 定食屋「おかん」の前に着いた。ご飯を食べないともう何もできない状態だ。

 俺はドアを開けて、店内に入る。

「いらっしゃい」

 岡野さんの声が厨房から聞こえてくる。なんだが、普段よりも元気良さそうだ。

 常連さん3人がそれぞれ違うテーブル席に座り、ご飯を食べている。

 ピークの時間を外して来てよかった。

「どうも」

「あら、晴羽。今日も来てくれたのね」

「うん。どこ座ってもいいよね」

「えぇ、どうぞ」

 いつものカウンター席に座る。

 岡野さんは俺の前に水が入ったコップとお手拭を置いた。

「今日は何にする?」

「ミックス定食で」

「それ好きだね」

「はい。大好きです」

「ありがとう」

「岡野さん。何か機嫌いいですね」

「そう。まぁ、いいことがあってね」

「いいこと?」

「あの子が弁当を食べてくれたのよ。普通に考えたらホラーだけど。……ちょっと待って」

「……はい」

 岡野さんは厨房の奥にある休憩スペースに行った。そして、スマホを持って来た。

「これよ。現物は汚したくないからね」

 岡野さんはスマホの画面を見せてきた。画面には「母ちゃんへ。無茶苦茶不味かった。でも、世界一ましな味だったぜ」と書かれた紙が写っている。

 守さんが書いたものだろう。

「いいですね。これ」

「でしょ」

「大切にしないといきませんね」

「えぇ。宝物よ。馬鹿息子からの」

「はい。そうですね」

「あ、ごめんね。ご飯今から作るから」

「はい。世界一美味しいご飯が出来るの待ってます」

「えぇ。世界一のミックス定食作るから待って」

 岡野さんは嬉しそうに笑って言った。

 守さん。貴方の想いはお母さんにちゃんと伝わってますよ。だから、安心してください。

 オモイバト。俺はこの仕事を誇りに思う。だって、こんな素敵な親子の絆を見れるんだから。

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オモイバト APURO @roki0102

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