第48話


 聖教会は開かれた公会議にて彼を今代現れた新たな魔王として討伐することを正式に決定した。


 聖戦の号令が発されたことは、王国の有史以来数えるほどしかない。

 故にこの報せに王国中が沸き立ったのは、言うまでもないことである。


 今回発令された聖戦の相手は、マサラダの街の近くに新たに生まれた混沌迷宮とそのダンジョンマスターであるミツル、そして彼の勢力に与していると思われるリンドバーグ子爵であった。


 ラテラント王国の国教である聖教の信徒の数は膨大であり、貴族達の領民もそのほとんどが聖教徒である。


 故に領主達もその影響を無視することができず、そのほとんどが聖戦に対して肯定的な返答をせざるを得なくなっていた。


 だが恐らくは、聖教の言葉に彼らが反対することはなかっただろう。

 混沌迷宮から産出するアイテム類や魔道具類。中でも権力者達が目をつけたのはそのポーションの効用の高さだ。


 服用することで持病が治った高位の貴族達も多く、彼らは更なる若さを得るために自ら積極的に聖教に戦力を供出していった。


 そして聖戦に対して積極的なのは、何も貴族達だけではなかった。

 一般兵や退役兵に冒険者、あらゆる戦いを生業とする者達がこの聖戦に対して非常に意欲的になっていたのだ。


 もちろん混沌迷宮の財貨に目がくらんでいるというのもあるが、一番の理由は聖戦という特殊な戦争の性質にあった。


 聖戦には、参加した時点で、教皇の名の下に免罪符が与えられる。

 戦争へ参加する時点で彼らは俗世で犯した罪を赦され、死後天上の世界へと向かうことが約束されるのだ。

 故に彼らは死をも恐れずに、戦いへと出向く。


 この機会を逃せば次に聖戦に出会えるのはいつになるかわからないと参戦を表明する一般兵は多く、王国全土からの戦力は当初想定した以上に膨らんでいった。


 ラテラント王国における最大戦力を保有する三公爵による軍団が合わせて四つ。

 また東部辺境伯であるガジール伯が率いる貴族達による軍団が一つ。

 ここに貴族達の連合軍が加わることで、戦争に参加する人員は二万に届くほどであった。


 その中にはラテラント王国における最大戦力である公爵認定勇者、聖教会が保有する最高戦力である聖女や聖女勇者の固有スキルの一部を引き継ぐ勇爵家名代の姿もある。


 基本的に国内での闘争に加担しない王と帝国へ睨みを利かせるために必要な最低限の戦力を除いたほとんど全てが、混沌迷宮へと向けられようとしていた。


「――出陣だ! 現代に蘇った魔王を誅し、なんとしてでもこの世の安寧を取り戻すべし!」


 教皇による激励を受け、聖戦を行う軍団達――聖軍団が動き出す。

 彼らの瞳は皆、欲に濁っていた。


 けれど彼らは皆、自分達の勝利を疑っていなかった。

 自分達が誰に喧嘩を売ったのか、それを本当の意味で理解している人間は、この中に数えるほどしか存在しなかったのである……。






「閣下、そろそろラインラントが見えてくるかと」


「ほう、思っていたよりも随分と早かったな」


 配下からの報告にそう呟くのは、胸元まで伸びる白い髭をしごく壮年の男性だった。

 豪奢な衣服に身を包んでいながらも、その体躯はがっしりとしていて、熟練兵を思わせる彼こそは、コラブ公爵家当主、ラグ・フォン・コラブである。


 彼は帝国と国教を接していないため二個軍団を用意してきており、今回の聖軍団を率いている総大将も兼任していた。


 今回の聖軍団は、完全に寄せ集め集団である。

 基本的に領地を接している三公爵家の仲は悪く、また寄せ集めの軍隊に軍隊の規律に戒律を持ち込んでくる聖教の聖騎士達のせいで動きが鈍ることもしばしば。


 にもかかわらず今のところ特に大きな問題もなく進軍を進めることができているのは、彼が将としての才覚を持っている証左であった。


「あのこうもり共……領地ごと真っ二つに引き裂いてくれる」


 そう呟くラグは、鋭い視線で兵士達のうごめく先に広がっている地平線を見つめていた。

 大小問わず争いの絶えぬ王国においては、貴族に最も必要とされるのは武力である。


 故に当主である人間にも強さが求められる。公爵家当主であるラグ本人も、公爵認定勇者と一対一で戦えるほどの武威を持つ強者である。


 故に彼は許すことができなかった。

 あまつさえ魔物の力を借りふんぞり返っている人間達の存在を。


 現在彼らは進行方向を南西に取っている。

 その理由は彼が言うところのこうもりであるラインザッツ侯爵領を目指すためだ。


 彼の領地は今回、戦力の供出をのらりくらりとかわしていた。

 最もマサラダに近いにもかかわらず、一切の援助をしないラインザッツ家。

 彼らが魔物の手に落ちているのは明々白々……というのはあくまで建前。


 実際のところ、彼らが寝返っているのか日和見を決め込んでいるのかは関係がない。

 聖戦の名の下であれば、何をしても許されるからだ。


 ラグは兵士達の本番前の肩慣らしを兼ねて、ラインザッツ領をそのまま潰すつもりであった。


 そしてそのまま南下を続け既に敵の手に落ちたキルゴア伯爵領とリンドバーグ子爵領を陥落させ、混沌迷宮を支配下に入れるという絵図を既に描いている。


 リンドバーグ子爵領や既に敵の手に落ちているはずのキルゴア伯爵領に関しては領民感情や今後の統治のことも考えてあまり派手な略奪はできない。

 故にガス抜きとして、ラインザッツ侯爵領の存在はありがたい。


 彼らはそのまま歩を進めていき……日が暮れるよりも早く、ラインザッツ公爵領最北の街、サナイグへと到着する。

 やってきたラグが見たものは……


「なんだ……なんなのだこれはっ!?」


 誰一人領民のいない街と、まるでやってくるものを待っているかのようにぱっくりと開いている、大きな大きな洞穴であった――。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


新連載を始めました!

↓のリンクから読めますので、ぜひ応援よろしくお願いします!



ゲームが進むにつれてどんどん役目がなくなっていく脳筋キャラに転生した俺は、それでも物理を極めることにしたhttps://kakuyomu.jp/works/16818093094276871329

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やりこんだゲーム世界にダンジョンマスターとして転生したら、攻略に来る勇者が弱すぎるんだが ~自重せずにやりこみまくったら、難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団が出来上がりました~ しんこせい @shinnko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ