第47話


「勇者コタローについてかい?」


「ああ、俺からすると大切なことでな」


 この世界における始まりの勇者であるコタローの名を聞いて、俺はずっと疑問に思っていたことがある。


 初代『ダンジョン&モンスターズ』の実質チュートリアルだった、勇者コタローと彼が同名なのは、果たして偶然なのか。

 そして『ダンジョン&モンスターズ』とこの異世界のジョブやレベルのシステムが近しいものであることなども含めて、全てを偶然の一致で済ませて良いものなのだろうか。


 俺の言葉を聞いたハヅキは、立ち上がるとかけていた鞄に手を突っ込んだ。

 ごそごそと動かしてから、赤茶けた紙束を取り出す。


「これ、一応ご先祖様が残したって言われてる日記。ところどころ判読できないところもあるし紐も切れちゃってるから、気をつけて読んでね」


「用意が良くて助かるよ」


「魔王と呼ばれるミツルさんには言われるかなぁと思って、一応持ってきておいたのさ。何が起こるかわからないと思ったからね。」


 差し出された紙束を掴み、机の上に乗せてからゆっくりと見聞していく。

 この世界にやってきた際に自動翻訳機能がついたらしく、俺はこちらの言葉を問題なく読み書きすることができる。


『八月八日、僕は気付けば見たことのない場所に立っていた。僕はたしかにあの迷宮妖精を追っていたはずなんだけど……なぜこんなことになったのか、皆目見当もつかない』


 どうやら建国の祖であるコタローは、俺の知っているコタローと同一人物であるのは間違いなさそうだ。 

 もしかすると俺と同じく異世界転移者ではないかとも思っていたが、どうもそういうわけではないらしい。


 紙を破らないように慎重に読み進めていく。

 日記にはコタローが何をしてどう思ったかがつらつらと書き連ねられていた。

 どうやらこいつはかなり筆まめだったようで、俺からするとどうでもいいようなこともしっかりと書かれている。


 ただそのおかげでコタローという人間の状況をかなり細部まで知ることができた。


 まずコタローが飛ばされたのはこの世界でもかなり強力な魔物が出現する地域であるらしいことがわかった。


 魔物が跋扈しており人間達が慎ましやかに暮らしている場所で、彼はリーダーシップを取りながら戦いの日々を送ったようだ。


 コタローはその場で魔物を倒して日々の糧を得ながら、レベリングを行い転職を繰り返したらしい。

 当時は聖教の力がそれほど強くなかったようなのは、少し興味深い。


『僕に新たに宿った固有スキル、勇気の旗印……これがあればどんな魔物を相手にしても負けることはない。ちょっと人間をやめているような気はするけど、気にしたら負けだ』


 ダンモンだとレベルが上がる前に倒されるので知らなかったが、どうやら固有スキルが目覚めるだけの才能があったらしい。

 勇気の旗印は、勇者が指定した旗印の下で復活が可能になる、いわゆるセーブポイントを作り出す勇者の固有スキルだ。


 だが出る杭は打たれるもの。

 それだけ強くなれば、当然ながら権力者達に目をつけられることになるのは自然な流れだった。


『二月六日、この国に逃げてきたという第三王女プリシラに出会った。どうやら彼女は王位継承戦に負け、この地に逃げてきたのだという。お姫様がこの未開の辺境でやっていけるのか……正直かなり疑わしい』


 勇者制度による認定勇者とは違い、ダンモンにおいて基本的に勇者の性質は善に寄っている。

 コタローは辺境で人を助け続け、そしてその救いの手はとうとう王国の少女にまで伸びる。


 辺境にやってきているのは、皆わけありばかり。

 彼はそんな辺境の仲間達と力を合わせ、姫様を旗頭に新しい国を建てることにした。


 勇者固有スキルというチートを持つコタローはその力を存分に発揮し、戦争に勝利。

 そうしてこのラテラント王国ができた……というのが大まかな流れのようだ。


「なるほどな……」


 全てに細かく目を通したわけではないが、おおよその概要は理解することができた。


 彼は間違いなく俺の知っているコタロー。

 本来であればチュートリアルとして俺の前に立ちはだかることになるあのコタローだったのだ。


 だがなんらかのイレギュラーが生じ、コタローはこの世界にやってきた。

 そしてその数百年後、俺がラビリスと一緒にこの世界へとやってきたというわけだ。

 この数百年のズレには、一体何か意味があるのだろうか?


 俺とコタローを同時に飛ばさなかった意味は?

 同時に飛ばせばコタローは間違いなく俺が殺していたはずだ。

 それを嫌った誰かが介入でもしたのか、それとも……いや、これ以上は考えても詮無いことだな。


「なるほど……助かったよ」


「一助になったのであれば良かったよ」


 モンスター達がいてくれるから、孤独を感じることはない。

 けれどダンモンからこの世界にやってきたのが俺一人ではなかったとわかって、少しホッとしている自分がいた。


 それに俺の勇者対策が無駄ではなかったことがわかったという収穫も大きいな。


 ハヅキはコタローが使えていた勇者の固有スキルの一部を使うことができるというし、何より……今後俺のような存在がこの世界に降り立たないという保証もない。


 二度合ったことが三度四度と起こるのなら新たな勇者がこの世界にやってくることや……場合によっては新たなダンジョンマスターが俺の前に立ちはだかることも考えなくてはならないだろう。


 しかし……コタローが国を興し、数百年越しにダンジョンマスターである俺と相対することになるとは、なんという因果だろうか。

 もちろんどれだけ時間が経っていようが、俺が勝つがな。


「そうと決まれば話は早い。リンドバーグ子爵を呼んでくるから、兵力の配置や戦争の絵図はそちらで上手いことやってくれ。うちのティアマトも同行させるから、こちらの派兵に関してはこいつに尋ねてくれ」


「了解だ」


 今回は基本方針を策定したら、ダンジョン外のことはティアマトに任せる。

 俺の本域はあくまでもダンジョンマスター。

 やってくるであろう本隊を一人残さず食らい尽くすために、ギリギリまでダンジョンに手を加えさせてもらおう。


 こうして防衛のための準備が始まり……あっという間に月日は流れ、数ヶ月の後にラテラント王国の上層部によって正式に聖戦の開始が告げられる。

 そして混沌迷宮とラテラント王国による戦いの幕が開く――。





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やりこんだゲーム世界にダンジョンマスターとして転生したら、攻略に来る勇者が弱すぎるんだが ~自重せずにやりこみまくったら、難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団が出来上がりました~ しんこせい @shinnko

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